12月25日(月) 健太

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12月25日(月) 健太

クリスマスだがまだ学校は冬休みではない。今日は随分と肌寒い。いつもより着込んで、毎朝の日課のビスケットの散歩をしようと外に出て、固まった。雪だ…。雪が降っている。それも小さく今にも雨になりそうなものではない。雪はゆっくりと大粒のものが降っている。「雪がしんしんと降る。」とよく表現するがまさにそれがこれなのではないだろうか。玄関から庭に出ると思ったより積もっていた。20cm近く積もっているのではなかろうか。ここでは雪が降ることもあまりないし、ましてやなかなか積もらない。積もってもすぐに溶けてしまう程度。逆に凍結して危ないくらいだ。でも今回の雪はしっかり積もっていて逆に歩きやすい。ビスケットも珍しいのかはしゃいでいる。散歩をいつもよりゆっくり済ませ、今日は早めに家を出ることにした。自転車では危ないのでバスを使って学校へ行く。学校に向かう車内で昨日のことを思い出していた。昨日、学校で全く関わったことのない生物の松本先生が家に来た。それもアイスケーキを持って。Sweetie Robin、僕が大好きなケーキ屋さんだ。そこではアイスケーキも売っている。僕は小学生の頃そこのアイスケーキを誕生日の度にねだっていた。でも、誕生日は冬だしアイスケーキはホールでしか売っていないからそんなに食べたらお腹壊すって言われて買ってもらえたことないんだった。いつも食べたかったって菜月に愚痴ってた気がする…。だから、あのケーキを見たとき本当に菜月からだって思えた。しかもケーキを見たら僕の好きなストロベリーとクッキークリームの2種類の味のアイスケーキだった。あのお店のアイスケーキはミントが入っているものが人気商品だったはずだ。でもそれを選ばずにストロベリーとクッキークリームを選んだのだから尚更菜月しかありえない。菜月が本当に見守っている気がする。久しぶりに浮き浮きした気分で教室に向かう。浮かれた気分を必死に隠しながら席で勉強していると達也がやってきた。 「おはよ。どうしたんだよ?なんか、嬉しそうだな?」 「いや…なんでわかったんだよ?」 「最近いつも暗そうな顔してたからな。」 「…昨日菜月からケーキが届いたんだ…。」 声を潜めて答える。 「あ、そっかお前今日誕生日だったな。そうだ。おめでとう。」 達也は驚きもせずにそう言って、カバンをゴソゴソと漁り、リボンの付いた薄い包みをくれた。おそらく図書カードだろう。 「ありがとう。」 「やっぱ、この世に死者の魂が留まるって言うのは本当だったんだな。でも、俺が聞いていたより長いな。俺は1週間って聞いたんだけどな。もう2週間は経ってるよな。でも、どうやって届いたんだ?」 「生物の松本先生が持ってきた。なんたって夢で菜月と会ったんだって。俺も夢で会いたいなぁ。」 「そうだったのか…。でも、よかったな。ちゃんと石崎さんを感じられて。お前も石崎さんが見てるってことがわかっただろ?これから石崎さんの分も頑張らないとだな。」 「ああ。」 チャイムがなり、先生が入ってくる。1日の始まりだ。菜月が亡くなってから何度も経験したはずなのに今日は全てが新しい気分だ。幼なじみが亡くなったと言うのに爽やかな気分さえする。  授業を終え、爽やかな気分で家に帰るとリビングのテーブルの上に珍しくはがきが置いてあった。 「健太!見て!菜月ちゃんからバースデーカードとクリスマスカードが届いているのよ!」 母さんからはがきを手渡される。 びっくりしてはがきをよく見る。ほんとだ…、菜月からだ。 「健太、お誕生日おめでとう! もう18歳だね! 今回はお菓子の詰め合わせを卒業してバースデーカードにしてみました!  どう?喜んでくれるといいなぁ。  素敵な1年にしてね! 大好き!                                 菜月」 「健太、Merry Christmas!  今年はクリスマスカードもあるよ!  健太、毎年誕生日とクリスマスプレゼントを一緒にされること悲しんでたもんね。 ささやかだけれど私からのクリスマスプレゼントだよ!  毎年?健太が楽しみにしていたホワイトクリスマス。今年は雪降るといいね!                                    菜月」 菜月…。まるで死を予期していたかのようだ。いや…これは菜月がこの世に留まっている間に書いたのではないだろうか…。それに大好きって…。菜月は本当に僕を見守っているのだろうか。だとしたら菜月に自分の気持ちが知られて恥ずかしい。いや、でも菜月も同じ気持ちだったのか?それに雪が降るといいねと言うことは菜月が雪も降らしたのか?死者と言うのはそこまでの力を手に入れられるものなのだろうか?混乱と嬉しさが頭の中でごちゃ混ぜになる。 「健太…。よかったね…。」 見ると母さんが今にも溢れんばかりの涙を目に溜めていた。 「なっちゃんは健太と遊ばなくなってもずっと健太のこと大切に思ってくれていたんだね。よかった…。」 気がつくと僕も泣いていた。 その時、軽快な音楽が母さんの携帯から鳴り響いた。 「あら、由美子さんからだわ。」 そう言って電話に出る。 「あら、菜月ちゃんが!?すぐに健太に行ってもらうわね。」 「健太、菜月ちゃんの部屋にノートがあってそこに日記が書いてあったそうなの。その中に周りの人への感謝の言葉が書いてあって健太への言葉もあったって。なっちゃんの家に見においでって。」 (菜月、急になんなんだよ。泣かせて来やがって…。) 菜月の家に行ったらそう言ってやる。そう思えるくらい、菜月が生きているように感じた。
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