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12月25日(月) 有紗
なっちゃんがこの世を去って2週間になる。この期間一度となっちゃんのことを忘れたことはなかった。私にとってなっちゃんは1番の親友だ。なっちゃんにとってもそうであって欲しい。そんなに大切な人を失い、私の世界からは色が消えたようだった。色だけでなく、光も味も…何を見ても暗く感じるし、何を食べても美味しくない。家族もそんな私を見てどうしたらいいのかわからなかったようだ。もうすぐ冬休みだと言うクリスマスの今日、雪が降った。それもここにしては珍しく結構積もったのだ。その雪を見ながら、いつだったかなっちゃんがスキーをしたいと言っていたのを思い出した。雪の写真を撮ってなっちゃんに送った。なっちゃんが亡くなってからもなっちゃんに写真を送ってしまう。当たり前だが、なっちゃんからは返事がない。なのに、突然携帯がなり、通知を見るとなっちゃんだった。慌ててケータイを見るとどうやらなっちゃんのお母さんがメッセージを送って来たらしい。
「菜月の部屋からノートが見つかりました。開けてみると日記のようで有紗ちゃんとの思い出やメッセージも書いてありました。よかったら読みに来てください。」
そう書かれていた。すぐに返事を返し、なっちゃんの家に向かった。
なっちゃんの家に着くと誰かいるのか話し声が聞こえた。案内されて和室に行くと5組の健太くんと中島くんがいた。
「すげぇな。石崎さん。」
「あいつが日記書いてたなんて知らなかった。なんてったって3日坊主ですぐ飽きるのに日記が続くなんて。宿題だって最後の1, 2日くらいで慌ててやるのに。」
健太くんと中島くんが日記を読みながら話している。
「あ、大谷さん。大谷さんのことも書いてあるよ。どうぞ。」
私に気がつくとそういって日記を渡してくれた。
「ありがとう。」
そう言って見せてもらう。
ノートをみるとその日の出来事と共に周りの人への感謝の言葉が書いてあった。
「12月になった。健太の誕生日がやってくる。今年もお菓子の詰め合わせかなぁ。健太にはいつもお世話になってるし、なんとかして感謝を伝えたいけど恥ずかしい。だから、ここに書こう。ごめんね、健太。いつもありがとう。いつかしっかり伝えたい。」
「今日も有紗に勉強教えてもらった。有紗はすごい。学校の先生よりわかりやすく教えてくれる。さすが私の親友。」
「有紗といつものフードコートへ。学校の話とかたわいもないことで3時間も話した。毎日一緒にいるのに話題が尽きない。大好き。」
「授業中寝てたら当てられてしまった。分からなくて困ってたら有紗が後ろから小声で教えてくれた。本当にダメな親友でごめんね。本当に有紗には感謝しかない。いつか有紗の役に立ちたいなぁ。その前に有紗を見習ってしっかりした子になりたい。」
「今日はお仕事が大変だったみたいでお母さんがいつもより疲れて見えた。私のためにいつもありがとう。早くお母さんの役に立って楽をさせてあげるようになりたい!」
沢山の言葉に涙が止まらない。ふと、健太くんの方をみると健太くんも泣いたのだろうか目が赤い。
「菜月は僕たちのこと見てるよ。僕たちも頑張ろう。」
中島くんがそう言う。
「見てる…」
「そう、ポストカードきてなかった?」
健太くんに言われ、思い出した。家を出るときにポストに私宛の葉書があってよく見ずに鞄に入れて来たんだった…。
「え…なっちゃん…。」
それはなっちゃんからだった。
「有紗!
Merry Christmas !
美味しいケーキ食べて素敵なクリスマスにしてね!
有紗は頑張り屋さんだから無理しすぎないようにね!
大好き!
菜月」
「…。」
涙があふれて言葉にならない。
「お前なんでいるんだって思ったよな。こいつの家の前で会ってここに一緒に来たんだ。俺に言われてもって感じかも知れないけどさ、俺さ、母ちゃんから聞いたんだ。死者の魂は死後7日間この世に留まるって。その間にこの世でやり残したことをやるって。そのあとは天に登ってみんなを見守るんだって。石崎さんはやり残したことが沢山あったのかなぁ。まだ、この世にいるのかな?まだこの世にいてもいなくても俺らを見てるよ。俺には健太の気持ちも大谷さんの気持ちもしっかりわかってやれないかもしれないけど、石崎さんも2人が笑顔なら安心すると思うよ。」
「…うん…。」
泣きながらうなずいた。
見るとなっちゃんのおばさんも泣きながらこちらを見ていた。
おばさんにお礼を言い、なっちゃんの家を後にした。3人で帰り道を歩く。雪はすでに止んでいるが積もったものはまだ溶け始めてはいなかった。雪も降るような寒い日なのに私達3人の間にはほっこりとした空気が流れている。なっちゃんが見ている。それだけで嬉しい。これから頑張れる。いや、頑張ろう!そんな思いを胸に家に向かった。
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