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12月13日(水) 健太
目覚ましが鳴る。長い夜が終わった。昨晩も全く眠れなかった。2日も寝てないから体はひどく疲れている。でも、寝ようとするとあいつに最近冷たくしてたなとか、いつもギリギリだったのになんでもっとちゃんと注意しなかったんだろうかとか考えてしまう。どうしたらあいつは死なずに済んだのだろう。頭の中はそればかり。ひたすらそれだけを考えていたらもう12時になっていた。僕は学校をさぼってしまっていたらしい。
のそのそとリビングに行くと母さんがチャーハンを出してくれた。一昨日くらいからまともに食べていないからかさすがにお腹が減った。ゆっくりと食べ始める。
「母さんはこれ食べたら由美子さんのお手伝いに行くけど健太も行く?」
僕は黙ってうなずいた。
お通夜の会場まで歩いていく。この道を歩くのは久しぶりだ。幼稚園の前を通った時、菜月との思い出が蘇って泣きそうになってしまった。そういえば、まだ菜月が亡くなってから泣いていない。人間って本当に悲しいときは泣けなくなるんだと思った。泣くとかではなくて、茫然としてしまうのだ。あまりのことに現実が受け入れられない感じ。そんなことを考えているとお通夜会場に着いた。
菜月のおばさんは淡々と準備をしている。でも、その顔には生気がない。魂が抜けた抜け殻がただ動いている感じ。突然娘を失ったらそうもなってしまうだろう。しかも、菜月には父親がいない。さらに祖父母も亡くなっており、親戚とも疎遠らしい。だから、おばさんは菜月を亡くして唯一の家族を失ったことになる。にも関わらずこうして一人で準備をするのは酷だ。せめて近くにいて支えてあげたい、何か力になりたいと母さんはここに来たのだろう。
おばさんは葬儀会社の方との打ち合わせがあるらしい。母さんもそれについていくようだ。僕は何をするでもなく、菜月のそばに座り菜月を見ていた。本当に今にも起きだしそうな顔。本当に受け入れられない。どのくらいの時間そうしていただろうか。母さんとおばさんが戻ってきた。そこから僕は母さんと受付についた。母さんから香典を受け取ることなど受付の仕事を教わった。教わっているうちに参列者が次々と訪れ、大忙しになった。高校の同級生だけでなく、小学校や中学校の同級生だった人たち、中には幼稚園で一緒になっただけの子までたくさん来た。本当に菜月は愛されていたんだなって思うと菜月はもうここにいないのにうれしい気持ちになってしまう。その夜は葬式会場にいるにも関わらず、忙しさと菜月がたくさんの人に愛されていたことを知れたうれしさで菜月の死を思い出すこともなかった。ずっと立っていた疲れで家に帰ってぐっすり眠った。
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