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第零話 太陽が消えた日
……世界は突然、光を失った。
空も星も月も無い暗闇の世界に取り残された人間達は口々にこう呟いた。
『 太陽 が 死んだ 』
――……と。
闇に蠢く彼ら人間は、神々の意図を探るべく、奇跡の神子と呼ばれる七人の子等の元へ集いはじめた。
七人の神子は神より授けられし奇跡の力を持つ地上の子等。
万物に宿る神々との対話を許された選ばれし七人の兄弟。
大自然を使役する彼ら七人は人々から敬われ崇められる存在であった。
それ故に人々は彼らに縋りつき、彼らに希望を託した。
『何ゆえに光の大神は人々を照らすことを已めたのか』
『何ゆえに太陽神は崩御なされたのか』
『何ゆえに人々からすべての光を奪い逝くのか』
七人の神子は人々に望まれるまま幾度も神との交信を試みていた。
しかし無情にも…消え去った闇の空からは何の音も響きはしなかった。
人々が求める救いの音色も神子が望む神の声さえも届くことはなかった。
神子らを支える七人の守護者もまた神々に深く永い祈りを捧げていた。
しかし無情にも…彼らの祈り一つですらも歪な黒空には届かなかった。
それでも人々は懐かしき陽光を求めて彼らに希望を託し希望を問う。
『神子様、守り人、何ゆえに、我らは光を、空を奪われたのです?』
その問いかけにはみな一様に唇を閉ざして左右に首を振る。
重く瞼を閉ざしている神の子等を見て、怯え竦む人々はとうとう気付いてしまった。
神々の声が響いてこない、神子らにも聴こえていない。
神の子の声もあちらに届いていない、神子が神子たる所以を失っている。
唯一の望みを絶たれた人々は一斉に言葉を失い、無音の世界が訪れた。
…無音から世界は二つに分断されてしまった。
希望を失くして絶望に陥る人間達。
絶望の中でも希望を失わぬ人間達。
希望を追い求める者たちは言う。
『我々は今、新たなる太陽神の誕生の瞬間に立ち会っているのだ!』
『これは幸福なことだ、神は我々に新世界の誕生を見届ける役目を与えて下さったのだ』
『新たな光の大神の誕生を見届けることこそ我らの大義であり、これこそが人々が神から与えられた栄誉ある使命である!』
希望に臨む人間達はあらゆる可能性を各々に考え、広め、伝えて回っていた。
しかし絶望に朽ちた人間達は彼らの言葉を否定した。
『我々は神に見放されたのだ、この世界は終焉を迎えようとしている』
『終わりを告げたこの世界で、闇に閉ざされたこの世界で何を宣うのか』
『見届けることは大義などではない、ただそこに死が存在するだけなのだ』
絶望の人間達は希望の言葉を受け入れず、深淵の底へ傾いてゆく。
希望を信じて道を説く者たちも少しずつ絶望側へと傾いてゆき、ひとり、またひとりと希望を信じる者たちが果てなき絶望の闇へと沈んでゆく。
それでもなお希望を信じる者は存在し続けた。
絶望を確信した者たちにも必ず新たな世界を迎えると謳い、盲信しながら世界を生きた。
絶望を信じる者たちは希望の新世界を拒み続け、彼らは次第に対立しはじめた。
彼らはいつしか、空無き暗闇の世界を二つの名で呼びはじめたのだ。
絶望の人間達は[終端の世界]と呼び、希望の人間達は[新世界]と呼んだ。
それぞれに二つの世界を構築しながら、それでも互いにこの世界の結末を静かに静かに見守っていた……筈だった。
絶望に朽ちた人々が、ある日を境に変貌し始めた。
誰がそれを呟いたのか?
誰がそうだと囁いたのか?
誰がそれを広めたのか?
誰がそうだと教えたのか?
誰が、誰が、誰が?
…始まりなど誰しもが忘れてしまうほどに永く長く続く暗闇の世界で、絶望の人間達はある種[一縷の希望の光]とも言える[仮説]を口々に唱え始める。
仮説は各々の解釈の果てに[事実である]と確信され、絶望人は一縷の望みに奮い立ち、……あるいは何も信じずただただ湧き上がる衝動のまま……
その作戦を、儀式を、実行し始める。
『神子を神の御許へお返しするのだ』
『その為には守護者を生贄に捧げなければならない』
『守護者を媒介に神は再臨する』
『地上の神子と引き換えに太陽は目覚める!』
『その時こそ!我々の世界に光が蘇る!』
絶望に落ちた者たちが叫ぶ。
希望を信じる者たちが叫ぶ。
『お前たちは間違っている!』
『神子を失えば我々はどうなる!?』
『選ばれし者達を失えば地上が崩壊するではないか!』
『世界は光を待たずして終わってしまうではないか!』
『再臨の陽を待たずして世界を終わらせるつもりなのか![絶望人]よ!』
希望を信じる者たちが叫ぶ。
絶望に落ちた者たちが叫ぶ。
『ならば愚かな[希望人]!真実を見よ!事実を見よ!』
『再臨の日など訪れぬではないか!』
『ただ安穏と過ごし終焉を見届けるのが我々の使命と言えるのか!?』
『間違っているのはお前たちだ!』
『神が地上に遺した最後の奇跡!神が地上に与えた遺子!』
『それこそが神子!それこそが選定者!』
『今こそ彼らがその役目を果たす時が来たのだ!』
『我々はこの身を穢してでも尊き仔等を神に御返しせねばならない!』
自分を信じた者たちが叫ぶ。
『我々が立ち上がらねば永久に太陽神は目覚めぬのだ!』
『我々が立ち上がらねば永遠に月女神も微笑まぬのだ!』
『光の生を授かりし全ての人間よ、闇の死を待つせいなる人々よ』
『今こそ集え!闇に立ち向かい我らに真なる安寧を!』
『今こそ違え!死をも絶ち切り我らに真なる永遠を!』
……対立する意志、彼らは縊死を遂げるのか、あるいは遺志を継げるのか。
災厄の日、遺子は意思を生み、その命を蝕むだろう。
誰にも何にも気付かれず、災厄の燈は訪れる。
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