冷やし中華はじめました

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 蝉が元気よく鳴いてるある夏の昼下がり 白いワンピースを着た女性が中華飯店の入口に立っていた 店主の酒田は、女性に対して「へいらっしゃい!」と言うと女性は日傘をたたみ、のれんをくぐる 「冷やし中華1つ」とか細い声で注文してきた 店主は、「へい、冷やし中華ですね」といい湯の中には中華麺を入れた 鍋の中で踊る中華麺達 店主は、きゅうりをリズムカルにきり、ハムを細く切る。 みずみずしトマトが、パカッと開く 薄く焼いた錦糸卵が切られていく、そして、匂いですぐわかるミョウガが切られる音、全てがミュージカルに聞こえる 女性はカウンター越しからその姿を見ていた 麺が上がり、氷水で冷やされて皿に盛られる 麺と言う舞台に、きゅうり、錦糸卵、ハム、トマト、ミョウガ…一番上には、主役のように現れたさくらんぼ この、さくらんぼがまた赤々しく宝石のように輝いていた その女性の前に、冷やし中華が現れた 女性は、麺を静かにすすり、始めた 食べてる時は、笑顔で美味しそうに食べていた しかし途中からなぜか泣き始めた 奥から休憩してい店主の奥さんが出てきて、泣きながら食べる女性を見て「お前さんお客さんに、なにしたの!」と怒鳴ってきた 「かーちゃん違うんだよ、俺はただ冷やし中華作ってお出ししただけだよ!」 「お前さんが冷やし中華?はじめたばっかりの?お前さんときたら、冷やし中華もろくに作れないで」 と奥さんは呆れながら言ってきた 女性は「違いますよ、奥様。こちらの店主の出していただいた冷やし中華は美味しいです。私はこの、冷やし中華食べて思い出したのです。それで涙が止まらなくて…」と必死になる女性 奥さんは、「あらそうなの?ごめんなさい」と言って店主の頭を叩いた  女性が冷やし中華を食べ終えると奥さんが「先ほどは、ごめんなさいね。これ、お店からのおごりよ」と言ってメロンクリームソーダをだした メロンソーダの上に、バニラアイスと赤く輝くさくらんぼ 女性は、お礼をいい飲み始めた 奥さんは、女性の浮かない顔を見て「どうしたんですかそんなに落ち込んで」と聞く 女性は「すみません、冷やし中華食べていたら、30年前の事を思い出して…」とうつむき始めた 「良かった話してちょうだい、私達の仕事はお客さんを笑顔にさせる商売だからさ」と奥さんが言うと「け、何が笑顔にさせるが」と店主が言ったので奥さんは店主にめがけて胡椒を投げた「うるさいあんたは黙っとき!女心わからないアホは!」と怒った 「ごめんね、うちのバカ店主がさ」と言う奥さん 「いえ、大丈夫です」 「で、一体どうしたんだい」 「実は、初恋の人が作った冷やし中華を探してるです」 「初恋の味てやつだね」 「はい、私が学生の頃、高校近くの食堂で食べた冷やし中華でして、そこの店主に片思いを…私が卒業後その食堂が、いつの間にか潰れていて、今は駐車場になってます。それでこの時期になると冷やし中華を探し歩いてます。とにかく、冷やし中華はじめましたの張り紙みて探してます」 「そうなの、その冷やし中華て、どんな特徴が有るの?」 「ここと同じく、ミョウガとさくらんぼがのっていて、他にもかにかまがのっていました」 「うちは、かにかまが、のってないから違うのね。他に特徴ない?例えば何かメニューで驚いた物とか」 「いえ…あ、でも、もう一品頼んでないですけど、かに玉飯て食べました」 「かに玉飯?天津飯のこと?」 「いえ!かに玉飯です」 「かに玉飯ねー。でもあなたよく食べるねー」 「部活で弓道やってたので」 「あら、弓道?かっこいいわね」 と、2人の話を聞いて店主が思い出したかのように冷蔵庫に向かった 無言で中華鍋をふるいはじめた 「お前さん何してるの?」と奥さんが聞くと「何でもね、ちっと賄いを作ってるんだよ」 「あんたお客さん居るのに賄いて…」 「バカやろ!お客さんの為に賄い作ってるだよ」と店主は言いながらそそくさと何かを作ってる いた 数分後、女性の前に、かにかまが入った玉焼きがご飯の上にはのかってきた  店主が女性に対して「冷やし中華じゃお腹すくでしょ、これも食べな」と言う すると女性は、思い出したかのように店主を見つめた 女性は、かに玉飯を一口食べると、あの頃を思い出したのか店主に、「三井さん…」と訪ねた 「へぇへぇ、そうだよ。北高校前のあった三井食堂だよ」と店主が笑いながら言うと奥さんは、「まさか、うちのアホ店主の事が…」と驚いたように聞いた 「はい、三井さんです。間違い無く三井さんです」 「何十年ぶりだろうね、元気にしてたか」 「はい、元気にしてました」 「そうか、昔よく、弁当忘れたとか言って俺らの店に来ては定食食べてたね」 「はい、その頃から三井さんの事が好きでした」 「そうか、でもその答えはこれだよ。悲しましてごめんな、金井さんの事気づけなくて。本当に俺は、女心わかんね男だよ」と店主が言うと 女性は、泣きながら「三井さんに会えただけで嬉しいです。」 「そうかい、また食べにきな」と店主が言う 奥さんは、「さぁて、買い物でも行って来ようかね」といい席を立つと、女性は奥さんに深々とお礼を言った 「また、食べにおいで」と奥さんも笑顔で言った 2人は金井さんを見送った、金井さんはどこか笑顔で、そして、昔の初恋相手に会えたのが嬉しいのか、楽しそうにしていた 「あんたも、すみに置けないね」と奥さんは言うと、「バカやろ、昔の話だよ」と照れくさそうに店主が答える 2人の思い出を冷やし中華と言うタイムカプセルが掘り出された今日、その日からお店の看板メニューとして売りだせれた
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