14.妻がいない婿殿だから

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 すると母は銀の持ち手がついたホットグラスを握りしめ、疲れた顔を見せた。 「だってそうでしょう。お父さんの望むとおりに生きたら……美月みたいになると思うもの。可哀想なことをしたと思っている」  あの母がいとも簡単に涙を流しはじめたので、カナはたじろいだ。 「もっと自由にさせてやりたかったけれど、責任感が強い子で頑張りすぎてしまったのね。いつも言っていたのよあの子にも、嫌なことは嫌といいなさいと。なのに、あの子、お父さんにそっくりだから、自分で自分が許せなかったのでしょう。全部完璧にして……」  母が泣きながら、初めて娘に言った。 「母さんは、あの夜、美月は壊れて飛び出してしまったんだと思っている。耀平さんはなに言わないけれど、私やお父さんのことを庇って、美月を良い奥さんで娘のままにして守ってくれてきたんだと思う」  またカナは一年半前に引き戻されたような錯覚に陥った。義兄は夫として感じているものがあった。母は母で感じているものがあった。  再び『自分はあまりにも子供過ぎた』と、当時の『わたしひとりで背負っていく』という勘違いをする己を、カナはぶん殴りたくなってきた。
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