14.妻がいない婿殿だから

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「カナ。今日、久しぶりに航の顔を見て、少し困った顔をしていたわね」  ドキリとする。敵わない鋭い母の視線は、そんなカナの反応をどう思ったのだろう。そしてそれは恐れていたものを引き出した。 「母さんだって気がついているのよ。あの子の側に一番長く居たのは私よ。カナ、知っているのでしょう。お姉さんから、なにか聞かされているのでしょう。美月は、妹の貴女には自分をさらけ出していたような気がするの。貴女が、お姉さんが大好きな妹だったから、歳が離れた可愛い妹に気を許していた気がするのよ」  大人の姉と、小さな妹。姉はなんでも良くしてくれた。なんでも出来て綺麗で素敵なお姉さんだった。あの日までは……。姉の本性を知っても、カナは嫌いになれなかった。自ら貶めて、傷つけて穢すお姉さんが痛々しいながらも、女として恍惚としていたあの幸せそうな妖艶さも忘れられない。私は完璧なんかじゃないという、彼女の叫びにも見えたから。  赤ワインが湯気を揺らすホットグラスを握りしめ、カナは心の奥に閉じこめた『願望』を振り絞る。駄目だ絶対に駄目だと言い聞かせてきたものを、洗脳から解くとように……、いま解きはなつ。
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