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やっと。カナは、初めて、人に。
「姉さん、好きな人がいたよ」
自ら、秘密の箱を開ける。
息引いた母の顔がある。でも母は、何かから解きはなたれたかのように泣き崩れた。
「やっぱり……! その人なのね、あの子の……」
はっきりと言葉でいうには憚ることだったが、カナには通じたのでこっくりと頷く。
「お母さんも感じていたの? 育てていると判ってしまうものだったの?」
「少しずつね。時間をかけて、ね。小さな疑いが一日ひとつずつ降り積もっていくようによ」
そしてカナはもっと辛いことを告げなければならなかった。
「その人は亡くなりました」
また母が驚き、今度は目を見開いたまま静止してしまった。開かれたままのつぶらな目から、涙だけが落ちていた。
「どうして!」
「亡くなった時、刑事がわたしを訪ねてきたの。男に刺されて亡くなったの。加害者の男と、刺された彼。双方が倉重に関係するものを持っていたから、警察も倉重が関係していると思って訪ねてきたの」
「まあ、どうしてそんなことが起きたの。倉重が関係して起きた事件だなんて」
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