14.妻がいない婿殿だから

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 十九歳の時から抱えてきた秘密。その秘密に押しつぶされそうになって必死になっていた日々を、母は受け入れてくれた。  花はいっしょにいきていく――べきだったのかもしれない。    ―◆・◆・◆・◆・◆―    世間は三連休。だから、母は航を連れて来てしまったのだろう。  帰らないだなんて言っているけれど、きっと三連休が終わる頃には気が済んで、航のために帰るに決まっている。 「うん、大丈夫だったよ。新幹線の乗り継ぎも、三島から沼津まで行って御殿場線への乗り換えも出来た。お祖母ちゃん、元気だから」  早朝。紺碧の夜空に溶け込んでいた湖が、少しずつ明るい色をさしはじめた頃。親方より先に焼き戻し炉の火を入れようとカナは起きる。一階へ下りる前に航の様子を見ようと、ドアの前に立つと微かにそんな声を聞いてしまう。
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