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15.星の数ほど嘘ついた
湖が凍った。全面凍結ではなかったけれど、凍りやすい岸がある地区に立ち入り許可が出た。
そうなると親方が工房からいなくなる。そして男達も落ち着かなくなる。そして、去年は訳がわからないカナが留守番をすることになった。
その親方が母が整えた朝食のテーブルで、いつにない笑顔で子供である航に話しかける。
「どうだ。航。今日はおじさんと『ワカサギ釣り』に行かないか。やったことがないだろう」
「え。ワカサギ釣りが出来るんですか。行きたいです!」
「おまえ、運が良いぞ。湖が凍った時に来るだなんて」
カナは呆れたため息を落とす。昨年も初めての冬を迎えたばかりで訳もわからず、男達はカナに火の番をさせて『今日は午前でおしまい』と笑って出掛けてしまった。
後で聞けば『いつもの岸が凍ったから、ワカサギ釣りにでかけた』とのことだった。
しかもその後、釣ってきたワカサギを調理させられたのもカナだった。天ぷらにして、工房メンバーで盛大な飲み会をした思い出がある。
でも、とてもおいしかった。ワカサギは初めて。義兄さんがいたら凄く喜んだだろうな……と思ったほどの、その土地ならではの味だった。
そうしてカナはまた思いに囚われる――。
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