15.星の数ほど嘘ついた

1/20
前へ
/394ページ
次へ

15.星の数ほど嘘ついた

 湖が凍った。全面凍結ではなかったけれど、凍りやすい岸がある地区に立ち入り許可が出た。  そうなると親方が工房からいなくなる。そして男達も落ち着かなくなる。そして、去年は訳がわからないカナが留守番をすることになった。  その親方が母が整えた朝食のテーブルで、いつにない笑顔で子供である航に話しかける。 「どうだ。航。今日はおじさんと『ワカサギ釣り』に行かないか。やったことがないだろう」 「え。ワカサギ釣りが出来るんですか。行きたいです!」 「おまえ、運が良いぞ。湖が凍った時に来るだなんて」  カナは呆れたため息を落とす。昨年も初めての冬を迎えたばかりで訳もわからず、男達はカナに火の番をさせて『今日は午前でおしまい』と笑って出掛けてしまった。  後で聞けば『いつもの岸が凍ったから、ワカサギ釣りにでかけた』とのことだった。  しかもその後、釣ってきたワカサギを調理させられたのもカナだった。天ぷらにして、工房メンバーで盛大な飲み会をした思い出がある。  でも、とてもおいしかった。ワカサギは初めて。義兄さんがいたら凄く喜んだだろうな……と思ったほどの、その土地ならではの味だった。  そうしてカナはまた思いに囚われる――。
/394ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6613人が本棚に入れています
本棚に追加