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義兄さんが、見合いをした若い女を、山口の家に住まわせている。
「カナちゃん。こぼれる!」
ティーポットを傾けている手がそのままになり、母のための紅茶がカップから溢れそうになっていた。
手首を掴んで止めてくれた航が、カナの顔を覗き込む。
「カナちゃん。大丈夫? 俺がやるよ」
背が伸びた航がさっと立ち上がり、カナからうまくティーポットを取り上げていく。
並ぶともうカナとほぼ同じ背丈だった。しかも伏せた目が金子さんの眼差しにそっくりで……。
「カナちゃん座っていなよ。俺、これでも祖母ちゃんにお茶の入れ方を厳しく教わっているんだから」
ティーポットを傾ける手つきも、昔、姉の遺影に焼香に来た金子さんの優雅な仕草を思い出させた。
DNA鑑定の結果を聞くのも怖くて、カナは逃げるようにしてあの家を出てきた。でも、もう確信している。きっと航は金子さんの子供に違いない。
―◆・◆・◆・◆・◆―
昨年留守番をさせられたカナは、今年は先輩達に工房を任せ、親方と航と一緒に平野地区の湖岸へ向かう。母はさすがにこの極寒の外に長時間いるのは御免だと留守番になった。
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