15.星の数ほど嘘ついた

3/20
前へ
/394ページ
次へ
 岸辺が凍るのは国道からみたことがあるが、今年は沖合まで結構凍っている。既に青やオレンジ色のコンパクトテントが湖面に並んでいる。  親方も同様にコンパクトテントを設置し、すぐそばに椅子や釣り道具を置いて、縦長のドリルで氷に穴を開ける。とても手慣れたものだった。 「うわ。ほんとうにテレビでよく見ていたヤツだ」  氷に開いた穴を覗く航の目が輝く。そんなところはまだ無邪気で、カナはホッとさせられる。  防寒着でもこもこになった三人は、折りたたみ式のちいさな椅子に座り、短くて柔らかい竿を手にして親方に釣り方を教わる。 「餌はこれだ」 『赤虫』という釣り餌を突き出され、カナは躊躇した。ほんとうに、くねくねした赤い虫!  ええ、これにこんな餌つけるの……。釣りをする時は、いつも義兄が一緒で餌もつけてもらっていた。海釣りでも苦手な餌があるが、これまた淡水魚用の餌もカナには未知の生物に見える。 「お、航は手慣れているな」 「日本海がすぐ側なので、海釣りは父と良くしています」  すると航は餌をつけたばかりの竿を、すぐカナに差し出してくれている。 「ほら、カナちゃん。釣り餌は苦手だもんな」
/394ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6614人が本棚に入れています
本棚に追加