15.星の数ほど嘘ついた

6/20
前へ
/394ページ
次へ
「家は父と俺が守っていきます。だから叔母には自由にガラスを続けて欲しいと思っています。父もよく言うんです。カナが吹き竿を持ってガラスを吹く姿は勇ましく、仕上がったガラスは極上で、すぐに人の目にとまり売れてしまう。そんな惹きつけるものがガラスから放たれている。そうでなければ自家工房など起業しなかったとも言っていました。俺も同じです。小さい頃から叔母がガラスを吹く姿を見てきて、自慢でした。俺も父親もそんな叔母がいちばん好きなんです。それに父曰く、叔母は不器用すぎるのだそうです。義妹の目はガラスしか映ってない。器用に生きていける訳がない。夫になる男は、変わり者の妻に困り果てるに決まっている。だから……父は、叔母には、倉重にも囚われず、……たぶん、自分のことも囚われずに、無になってガラスを続けて欲しい。それがカナらしく生きられる道だからって……言っていました」    航の声が止まり、湖は静か。  だけれど、微かに氷の音が聞こえてくる。  パリン、ピキンと。小さな音が。  その音が聞こえるほど――。鎮まった空気の中に、ずっしりと留まる言葉。
/394ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6613人が本棚に入れています
本棚に追加