15.星の数ほど嘘ついた

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 でも。目の前にあるのは、今日も静かに佇む雪富士だけ。そして、カナの目の端には、じっとカナを見据えている親方の怖い顔がある。 「おまえの家の男達は覚悟が出来ているんだな。小さなおまえを支える覚悟がな」  なにもしないカナを、ただ日々を費やして前を見失ったカナを、それでも『俺達が家のことは支えるから、おまえは自由にしていて良い。それでいい』と……そう言っているんだぞ、と親方が突きつけてくる。  義兄さんはこの一年半で、最低限『妹』という関係以外はまったく我関せずの男になってしまった。その代わり『妹』が自由に生きてくれるように、家に戻って家に縛られなくて済むように『今度こそ兄らしく生きていく』。それが義兄さんが別れてから見つけた生き方――。  今になって義兄の気持ちに気がつくだなんて――!! 「おまえの『生きていく』はなんなんだ。兄貴はそれを待っているんじゃないか」  熱い目頭を閉じ、カナは俯いた。  この湖畔の工房に来てから親方がずっとカナに言いたかったことが、そっくり義兄が願っていたことになるようだった。 「あっ、俺の、もう引いている!」 「よっし。航、慌てるな。そのままそっと引き上げろ」
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