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小さな竿から垂れている長い糸を甥っ子がたぐり寄せると、氷の穴から小さな銀色の魚がちょこんと現れた。
「ちっせえ。うわ、でも釣れた!」
「これを今夜は腹一杯食いたいなら、もっともっと釣らねえとな」
『マジで?』と航がおののいていたが、なにか思いついたのか、慌ててダウンジャケットのポケットからスマートフォンを取りだした。
「カナちゃん、撮って」
「はいはい」
スマートフォンを渡され、釣れたばかりのワカサギと釣り竿を手にして氷の上で笑っている甥っ子を撮影した。
「富士山も入れてくれた?」
「もちろん」
「よし。父さんに送ろう」
ドキリとした。いま、カナが過ごしている世界が義兄さんに届けられるんだと思うと、どう感じるのだろうかと。
航がいまどきの子らしく手際よく画像を送ると、すぐに返信の着信音が航の手元から響いた。久しぶりに感じた義兄の気配。やっぱりカナはドキドキしてしまう。久しぶりに『これだから、義兄さんはずるい』と思ってしまった。
「父さんからだ。――なんて羨ましいことをしているんだ。富士山もでっかいなあ。だってさ。えっと、それから……。カナは……大丈夫……かって……」
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