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たぶん。カナは青ざめていたのだと思う。義兄はそんなカナを見て、ほんとうに困った顔をしていた。
「そんな顔するなんてな」
「……突然、だったから……」
それでも。愛しあっているなら、少しでも俺を想っているなら、そんな顔をするもんか。義兄はそうはいわなかったけれど、でも、きっと男として心で思っているはず。
こんなふうに彼を哀しませたくなかったのに。そしてカナだって……。
その時、義兄の表情がいつものしかめっ面に戻る。笑う時は柔らかそうな皮膚がカチンと石膏で固められたように。
「ここまで来たから、思い切って聞く」
その顔で義兄が、こんな時に胸を張って威風堂々とした毅然とした姿でカナに向かってくる。
「おまえ。美月からなにか聞いていることがあるんじゃないか」
これほど心臓が大きく動いたことはない。ここが義兄が自分の胸元でくつろぐベッドではなくて良かったとどれほど安堵したか。それほどすぐにわかってしまう動きをした。
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