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子供の頃から、私は「泣かない女」とよく言われてきた。
低レベルな男子のイタズラにも、泣かない。
先生からこっぴどく説教をされても、泣かない。
小・中・高・大の卒業式でも、周囲が別れを悲しんで泣いている中、私だけは泣く事は無かった。
「絵留って、ホントどういう状況においても泣かないよね。なんで?」
ある日、小学生時代からの友人である美優が、呆れるように私に尋ねてきた。
「悲しいとか嬉しい、って実感が湧くのが、多分人より大分遅いのかもしんない」
私はごまかすような微笑を浮かばせると、次の句を述べる。
「で、それが実感出来る頃には、悲しいのと嬉しいのが薄くなってて、いつも泣くタイミングを逃してるの。
だから、泣かないって言われると、アタシ的にも結構ツラいものがある。
アタシも皆みたいに泣いて、感動とかしたいもん」
「その涙袋、全く活用してないって訳かー」
ケラケラと美優は笑うと、目の前のチャイをコクリと一口飲んだ。
「っていうかさ、さすがのアンタでも結婚式では泣くでしょ。
『お父さんお母さん、今までアタシを育ててくれてありがとう』って手紙を読んだりとかする場面で。
もし、そこでも泣けないっていうのなら、アンタ人生で泣く場面、ほぼ確実に回ってこないよ」
「じゃ、当日は泣くように努力してみようかな」
28歳になった私は、職場で知り合った男性と2ヶ月後に結婚する事となっていた。
「そん時はさ、アタシもアンタが泣くようなとっておきの余興を用意しておくからさ。
期待しててよ。
20年近くアンタと付き合ってきた身としては、アンタが泣く瞬間を是非この目で見てみたいし」
「婚約破棄された結果、悔しくて泣く、ってのもあるかもよ」
「それ、自分で言っちゃダメだって」
美優は再びケラケラと笑うと、セットのミルフィーユを頬を緩めながら口に入れた。
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