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『はい、こんにちは!
って、「こんばんは」かな?
まずは、新郎の陽一さん、そして絵留。
この度はほんっとうに、ご結婚おめでとうございます!
で、20年近く付き合ってる絵留から、「美優、余興お願いー」って言われたんですけど、何をしようかなって必死で考えたんですよ。
歌とか歌うのってベタだし、親友代表でスピーチするのも、アタシの性格的に当日確実にガチガチになっちゃうから、そんでこういう「ビデオメッセージ」を作ろうって事になりました。
あっ、親友としては結婚式で絵留が泣くトコロを見てみたい、と思ってこの映像を作ったので、出席されている皆様はどうか絵留が今日、泣くかどうかに注目をー。
それでは、どうぞ!』
生前の軽快な喋り方そのままの美優の語りが終わると、映像が切り替わった。
小学生の遠足で、美優と二人写っている私。
中学生の卒業式で、無表情だった私。
高校の修学旅行で皆、笑顔で写っている中、一人無表情の私。
インスタやLINEにupしている私の写真など、私にまつわる様々な写真が小田和正の「言葉に出来ない」をバックミュージックにのせて、美優の書いた独特のキャプションで紹介されていった。
『何度も言ってますけど、卒業式とかになったら、普通泣くじゃないですか。
でも、絵留は「実感が湧くのが遅い」って言って、中々泣かないんですね。
なら、結婚式って場でそれを実感させてやれ、って思ってこういう「ビデオメッセージ」を作ってみたんですね』
写真の合間に、美優の語りが入る。
その時、私の中に遅すぎる寂寥が突如舞い降りてきた。
この映像を作った美優とは、もう二度と会えない。
美優は死んだ。
生前の美優の映像と、その映像で美優が述べていた「実感」という一言が引き金となったのか、この場において私は「美優が死んだ」という実感をようやく抱く事となったのだ。
気がつけば、私は一筋の涙を右の目尻から流していた。
結婚式という「場」と、その「場」に合わせて作った美優の映像がもたらした遅れた「実感」がちょうど合致した瞬間であった。
「……泣いてる」
隣の席に座っている陽一が、泣き笑いの表情で私に突っ込みを入れる。
「実感が湧いたんだよ……」
私は返すと、とめどなく溢れてくる涙を人差し指で拭う。
「天国の美優さんも、今の絵留さんの姿を見て、非常に喜ばれているでしょうね」
映像が終わると、場の雰囲気に飲まれた司会の女性が涙声でまとめの言葉を述べる。
天国で美優が、私の姿を見て喜んでいるかどうかは分からない。
けど、今の私の涙を流し続けている姿は、生前の彼女が最も「見たい」と期待していた姿だな、と思った。
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