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置き去りにされたエミリアが気になって後ろを振り向こうとしたのをとめられる。
「いいよ。エミリアのことは気にしないで」
「でも・・・」
後ろ髪をひかれる思いでレオンハルトの後についていくアナスタシアだった。
「こちらで旦那様がお待ちでございます」
扉の前で執事が立ち止まる。
立ち塞がるように目の前には重厚な扉。
まるでアナスタシアと公爵家の人たちの間にある分厚い壁のようだ。
(この先に公爵様がいるんだ)
レオンハルトの育ての親が。
「アナスタシア」
不意に呼びかけられる。
レオンハルトがアナスタシアの手を掴む。
「いつも通りの君で大丈夫だから」
下手に取り繕ったりしないで自然体でいいとレオンハルトは言った。
公爵様に嫌われないようにと力が入りすぎていたのを見抜かれていた。
「叔父なら、いつもの君を気に入ってくれるはずだよ」
緊張をほどくための方便だとしても、その一言で気持ちが楽になったのは確かだった。
ひとつ大きく息を吐き出し気持ちをおちつける。
大丈夫、いつもの自然な自分で会おう。
「旦那様。レオンハルト殿下をお連れいたしました」
「おはいり」
執事が扉をノックすると、奥から深味のある男性の声がした。
開けてもらった扉をレオンハルトが進む。
アナスタシアはその後に続いて中に入る。
(あの方が公爵様)
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