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暗闇に潜み息を殺す。
この身を隠してくれるのは、雑多に積み上げられた空き箱の山。
「おい、どこに行った!?」
「こっちだ!こっちに逃げたぞ!!」
「チョコマカとすばしっこい女だ」
「逃がすな!探せ!!」
数人の荒々しい足音が近くでする。
全力で走って逃げてきて息が上がる。
自分が吐き出す呼吸音がひどく大きく聞こえた。
(いけない。見つかる)
アナスタシア・ヴィッツは、手で口元を覆った。
「お前らあんな上玉、いったいいくらで売れると思ってるんだ!!」
「いい女だったな。金持ちの旦那が高値で買い取ってくれるぞ」
「出港は明日の正午だ。それまでに連れ戻せ!!」
すぐ横に男たちがいる。
絶対に見つかりたくない。
あの男たちに捕まったら、明日の船に乗せられてしまう。
そうしたら、王都か、あるいはどこか異国の奴隷市場にでも売られてしまう。
(恐い・・・・)
震えそうになる体を抱きしめる。
男たちが他をさがそうと立ち去ってゆく気配がする。
やがて静かになった。
(逃げなくちゃ)
冗談じゃない。
このまま捕まって、どこかの下品な金持ちの男に買われるなんて。
奴隷として屋敷で働かせられるか、玩具になるしかないなんて。
そんなの絶対嫌だ!
何が何でも逃げなくては。
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