一秒間の愛してる。

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1  セックスしてる?  最初に心臓が大きく鳴り響いた時、頭の中に浮かんだ言葉はそれだった。  俺は手に持っていた文庫本を、机に伏せて置くと、埃や雨跡で白く濁っている窓に顔を近づけて、向かい側にある校舎の三階を見下ろした。一番端の少しカーテンが開いた隙間から、女の肢体が露わに見える。 その瞬間、興奮よりも驚きに心臓が大きく体内で響いた。大きめの白い乳房がガラス窓に押し付けられ、窓に圧迫されて潰れる乳房。彼女は振り返って誰かとキスをしていた。上下に揺さぶられる細い体、腰を掴む太い指。  音は聞こえないが、その細部までが鮮明に網膜に張り付いて、それをセックスだとやっと確信すると、俺は思わず黄ばんだカーテンの影に隠れた。心臓がどくどくと脈打ち、罪悪感と好奇心と得体のしれない高揚感が、体中を駆け巡る。  あの教室が何の教室なのか、把握はできないが、間違いなくあの教室で誰かと誰かがセックスしている。  その事実が俺の気持ちを妙に急かした。  俺はもう一度確認しようと、慎重にカーテンの隙間から向かいの校舎を覗いた。しかし、既に先ほどの窓にはカーテンがぴっちりと閉められており、他の窓と何ら変わりなく、静寂を纏いながら白くそこにあるだけだった。  いつの間にか詰めていた息をほうっと吐き出し、俺は知らぬ間に強張っていた体の緊張を解いた。  あれは誰だったんだろう。  そして、よくそんな大胆な事をするな。  何処か安心したような、それでいて少し残念なような、複雑な胸中に言い訳するように、苦笑いを浮かべた。そして、頭を一度振ってから、再び文庫本を手に取り、椅子のない机に腰を落ち着けた。
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