1人が本棚に入れています
本棚に追加
私は急いで1から10まで数え始めた。ひょこは特徴的なぽこぽこという足音をたて、走っていった。段々小さくなっていく足音を聞きながら数を数える。
「八、九...じゅ~う!」私は目を開けた。
よーし、今度は負けないぞ!
その時自分がかけ布団を握っていることに気がついた。これ、返さなきゃ。
「おばあさん布団ありがとうござ...あれ?」
私はおばあさんに布団を返そうとした。でも、おばあさんはどこにもいなかった。ただ、ベッドが一つポツリと置いてあるだけ。
私は不思議に思いながらも布団をベッドの上に乗せ、ひょこを探しに病室を出た。おばあさんはどこにいってしまったの?もしかしたら、ひょこみたいに隠れてるのかもしれない...。
私はそう思い、ひょことおばあさんを探してまわった。
ずいぶん探した。でも、ひょこはどこにもいない。病室も四階から一階まで全部見た。受け付けもトイレもいろんな部屋をまわったけどいない。それに.....
ひょこどころか、さっきはいたはずの看護師もいなかった。みんなどこにいったの?
急に怖くなった私は、受け付け前のところでしゃがみこんだ。物音一つしない病院はとても寂しい気がした。
「ひょこは小さいから...ずるいよ」
涙を堪えながら声を絞り出した。ひょこ、出てきて.....。その時だった。
『隠れないで出てきてよ』
声が聞こえた。
誰の声かはわからない。ひょこじゃない、おばあさんでもない、とても高い声。
『置いてかないでよ!』次に聞こえたのは叫び声だった。とても悲痛な叫び声で、体の奥から必死に出している声だった。
「誰かいるの!」私は勇気を振り絞り、声の主を探す。でも、一体どこから話しているのかわからない。耳を澄ましてみる。
でも、私が問いかけたとたん、その声はピタリと止まってしまった。
「ひょこ!ひょこもう終わり!私の負け!怖いよ!!」私はまた怖くなってひょこのことを必死に呼んだ。負けでもいい。出てきてほしい。離れないでほしい。
.....ぽこぽこ。
この足音は...!
「ひょこ!」振り返ると、ひょこがにっこりした顔で立っていた。
『みこちゃん!』ひょこは優しい声で言った。その瞬間涙が溢れた。
「ううっ、声がね、してみんな...っいないうわあああああん」私は小さなひょこを抱きしめた。涙が次から次へと溢れ出す。久しぶりに泣いた気がする。ひょこは小さな手で私の頭をぽんぽんした。
『みこちゃん、ごめんね!もうどこにも行かないよ!』ひょこが優しく私の手を握る。
私は暫く、泣いていた。涙が枯れるまで、ずっとずっと泣いた。
そうして、泣き止んだとき、私たちはかくれんぼをやめて、違う遊びをすることにした。
最初のコメントを投稿しよう!