1人が本棚に入れています
本棚に追加
徐々に徐々に……、おばさん達が出現する機会が増えていった。
最初は建物や、どこかから出てきただけであったのが、今や普通に、視界の端々に、当たり前のような風景として映るまでになっている。
こんな異常事態に、街行く奴等は、誰も気付かない。
当たり前だ。
俺にとっては“どこにいようが現れる、異常に井戸端会議をするおばさん”だが、その他大勢にとっては、どこにでもありそうな、ごく普通の日常とも取れる風景の一部なのだから……。
だから、誰も助けてはくれない。
それどころか、俺を狂人扱いして、変な目で見やがる。
この井戸端会議から逃れる方法を、毎日毎時間、毎秒必死になって考えた。
頭が痛くなる程。熱が出る程。
部屋にいる時でさえ、目の前で井戸端会議してやがる。
ちくしょう。あの時、安易に悪態なんて吐かなければ良かった。でなきゃ今頃、こんな事にはなっていない。
普段絶対言わない台詞なのに。
間違っても口にしない言葉だったのに。
何故、あの日に限って、俺は……。
そうして考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えた結果、ある一つの結論に辿り着いたのだ。
――そうだ。どうしたって逃れられないのなら、いっその事、あのおばさん達と、……井戸端会議をする。
ってのは、どうだ?
なかなかにして名案だ。
そう。そうしてその日から、俺も井戸端会議に加わった。
あれから数年後――。
「入り口でたむろするなよ」
俺は、そんな悪態を吐く男に、にやりと笑う。
さぁ、井戸端会議の始まりだ。
最初のコメントを投稿しよう!