第一章・―失言―

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 ただ、入り口でたむろする二人組のおばさんが邪魔で、普段は絶対に言わない言葉を口走ってしまった。  コンビニからの退店時に、すれ違い様に至極小声で――。  だから、相手には聞こえている筈がないと、高を括っていたのだ。  まぁ、よくある光景かも知れない。  そのままトイレへと向かい、用を足し、個室から出た瞬間に、自分はとてつもない間違いを犯したのではないか、という思いに囚われた。  ――いたのだ。  あの、おばさん二人組が、トイレ入り口に……。  先刻の発言がなければ、何の事はない。ただ、店員に注意を受けたかして、井戸端会議の場所を変えただけのように思える。  その証拠と言っては何だが、二人共にこちらを全然見てはいない。  会話に没頭するばかりで、先刻文句を言われた嫌がらせとか、お返しをしよう等という気配は感じられない。  尤も、それが余計に不気味なのだが、とにかく偶然だろうと気を取り直し、歩き出す。  それから、ずっと変だった。  何かをしようとする度。出掛け先、建物から出た直後といった感じで、行く先々で、必ずあのおばさん二人組が、視界に入る形で井戸端会議をしているのだ。  ……おかしい。あり得ない。  先刻まで駅前にいて、電車に乗って移動したのに、出たところでまた、“いる”。  何故執拗に付きまとう?  悪い事を言った訳ではない。嫌味とか、嫌がらせではなく、本当に迷惑だったから、呟いただけだ。  ……なのに。悪いのは向こう、ではないのか?  もしかして、知らずに変な連中に呟いてしまったのだろうか?  おばさん二人は、相変わらずこちらを見る事もなく、一生懸命会話しているようだった。
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