第一章・―失言―

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 徐々に徐々に……、おばさん達が出現する機会が増えていった。  最初は建物や、どこかから出てきただけであったのが、今や普通に、視界の端々に、当たり前のような風景として映るまでになっている。  こんな異常事態に、街行く奴等は、誰も気付かない。  当たり前だ。  俺にとっては“どこにいようが現れる、異常に井戸端会議をするおばさん”だが、その他大勢にとっては、どこにでもありそうな、ごく普通の日常とも取れる風景の一部なのだから……。  だから、誰も助けてはくれない。  それどころか、俺を狂人扱いして、変な目で見やがる。  この井戸端会議から逃れる方法を、毎日毎時間、毎秒必死になって考えた。  頭が痛くなる程。熱が出る程。  部屋にいる時でさえ、目の前で井戸端会議してやがる。  ちくしょう。あの時、安易に悪態なんて吐かなければ良かった。でなきゃ今頃、こんな事にはなっていない。  普段絶対言わない台詞なのに。  間違っても口にしない言葉だったのに。  何故、あの日に限って、俺は……。  そうして考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えた結果、ある一つの結論に辿り着いたのだ。  ――そうだ。どうしたって(のが)れられないのなら、いっその事、あのおばさん達と、……井戸端会議をする。  ってのは、どうだ?  なかなかにして名案だ。  そう。そうしてその日から、俺も井戸端会議に加わった。  あれから数年後――。 「入り口でたむろするなよ」  俺は、そんな悪態を吐く男に、にやりと笑う。  さぁ、井戸端会議の始まりだ。
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