1 襲撃

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「子供……?」 生贄に選ばれた子供だろうか? ベニーは確認のためにホークロウに無線連絡を取ることにした。ベニーは耳に装着していたインカムの通話ボタンを押す。 「こちらベニー。親父(ファーザー)…… 連絡願います」 暫しノイズ音が鳴った後にホークロウの濁声が聞こえてくる。 〈おう、ベニーか。いい加減にこんな軍隊じみた無線のやり取りはやめてくれ。こっちの調子が狂う。もう少しフランクに喋ってくれな〉 とは言うが、ベニーの無線での話し方は士官学校時代からずっと教育されたもので完璧に染み付いておりそうそう抜けるものではない。 「殲滅は完了、ですが、生贄にされそうになっている少年を発見。これから保護しようかと」 ホークロウはそれを聞いた瞬間に舌打ちをした。そして、無線でもギリギリ拾えるぐらいの小さな声で〈間に合わなかったか〉と呟いた。 「親父(ファーザー)?」 〈おう、ベニーよぉ…… 今回の命令はなんだ? 復唱してみろや〉 「はい、この雑居ビルに巣食う悪魔崇拝者達の殲滅」 〈よく覚えてるじゃないか。さっさと殺れ〉 「子供の保護は」 〈しなくていい。さっさと殺れ〉 「命令だ。早くしろ。出来ねぇなら他のやつに……」 エピナルは拳銃の遊底(スライド)を引いた。鈍い金属音が部屋内に響く。 ベニーは叫ぶ 「親父(ファーザー)! こいつは悪魔の生贄にされようとしていた少年、殺してはなりません」 〈ベニー、散々邪教徒のガキ殺してきたくせに普通のガキは殺せないってか。これは都合が良すぎるんじゃねぇか?〉 確かにそうだ。ベニーは邪教徒を数え切れないぐらいに殺してきた。女・子供・老人…… 邪教徒ではないと弁解をしようと、どんなに情に訴えかけるような命乞いをしてこようと無慈悲に殺してきた。それが我らがお父様の神託で正義なのだから。邪教徒を殺すと言う行為が悪ではなく絶対的正義であると士官学校や神聖真光軍で刷り込まれ染み付いたことだからこそ出来ることだった。 我らがお父様のユウヅツ教を信じないものは皆悪い邪教徒…… 我らがお父様は命は全て尊いものだと言う。だが、邪教徒はその枠から誰であろうと外れる。昔はウジウジと葛藤していたのだが、いつの間にやらゴキブリ駆除の感覚で人を殺せるようになり、これが正義だと評価されるようになって…… と、言ったことを考えていると、エピナルが少年の頭に拳銃を突きつけていた。 少年は雨の日に捨てられた子犬のような目でベニーの顔をじっと見つめる。それは、本気で生を懇願し求める目のように思えた。ベニーは今までこのような者たちを無慈悲に殺してきているので本来ならば心動くことはない。だが、今回は心が揺れに揺れて動いて躊躇いの感情を生んでいた。 「悪く思うな」
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