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今、目の前で殺されようとしているのは邪教徒ではないただの少年。それを平然と殺せと言うのか。うちの親父は。こんな半端者を拾ってくれた親父の命令は絶対、だが、やって良いことと悪いことがある。ベニーは自分がやるべきことに気が付き、懐から出した拳銃をエピナルの頭に向けた。エピナルは首を傾げてベニーに尋ねる。
「何、考えてるんですかい? 家族には決して銃を向けるなって鉄の掟が…… 冗談にしては笑えないですぜ」
ペペロンチーノ一家には「家族には銃口を向けてはならない」と、言う掟がある。仲間内で殺し合いをするなと言う意味の言葉である。
すると、少年が三角座りの体勢から右手を懸命に伸ばし、ベニーの左手をガッチリと掴んだ。
「お願い! 僕死にたくないよ! 助けて! お願いだから!」
「このクソガキ!」と、エピナル。それから銃口を少年の頭に向けて銃爪を引こうとした、その刹那、ベニーはエピナルの頭に向かって銃爪を引いた。乾いた銃声が辺りに虚しく響く。
それが、この世界を揺るがす戦いの狼煙となり、ベニーを激しい戦いの渦へと導いて行くことになるとはこの中の誰もがまだ知らないのであった。
エピナルはそのまま床に倒れ込んだ。頭を撃ち抜いたのだから即死である。殺ってしまった…… 家族を殺ってしまった。ベニーにとってエピナルは弟分、一緒に娼館(神聖教会経営、賄賂と言うお布施で見逃されている)に行ったり、酒を飲み交わしたり、親父への上納金が払えない時には助け合ったりもした仲である。そんな弟分をあっさりと殺してしまった。ベニーは始めて情の湧いた家族を殺したことを激しく後悔する。しかし、後悔してくよくよしている暇はない。この光景を見ていた実行班は一斉にベニーに向かって拳銃を構える。
「叔父貴! 何考えているんですか!」
「叔父貴のやったことは家族、いや、親父に対する重大な裏切り!」
「エピの兄ィはあんたの弟分じゃなかったのかよ! 弟分を殺すなんてあんた最低だ!」
反射的に少年を守るためとは言え弟分のエピナルを殺してしまった。他の兄弟達の怒りを買うのも当然か。ここで蜂の巣になるのもやむ無しかと拳銃を下ろそうとした時、少年が叫んだ。
「お願い! 僕を守って! ここでおじさんに死なれたら僕まで殺されちゃうよ!」
実行班のうちの一人、パルードゥが少年に向かって拳銃を向けた。ベニーは反射的にパルードゥの頭を正確に撃ち抜いた。またもや家族を殺ってしまった…… 一体俺は何をしているんだと自分で自分の行動がわからずに困惑している間にも、他の実行犯も少年とベニーに向かって拳銃の銃爪を引く。
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