1 襲撃

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こうして囲まれた時は伏せる。士官学校での訓練で身についた動きがベニーの体を勝手に動かした。 「ガキ! 伏せろ!」 ベニーと少年は床に素早く伏せた。実行班の拳銃から放たれた銃弾は二人の上を抜けて祭壇の上に置かれていた儀式の道具や捧げものを砕く。床に伏せたベニーは肩から架けていた自動小銃を気持ち上向きに薙ぎ払うように斉射し、実行部隊の胸を正確に撃ち抜いた。 肺を撃ち抜かれた者は後からの死、心臓を撃ち抜かれた者は即座の死を迎える。 「ちきしょう」 ベニーは立ち上がり、繋いでいた少年の手を乱暴に振り解いた。すると、ドクン ドクンと耳の横に心臓があるような音がし、激しく鼓動を叩き始め、その場に蹲る。 「おじさん、早く僕の手を握って!」 何を意味のわからないことを…… ベニーはその言葉に耳を傾けずに右手で心臓を押さえていた。 「しょうがないなぁ。このままじゃ僕もおしまいだし。仕方ないか」 少年はその場に蹲るベニーの左手を強引に右手で握った。すると、不思議なことにベニーの心臓の鼓動は瞬く間に落ち着いたものとなる。 「全く…… 僕の手を離すからこんなことになるんだよ。説明せずに呪いをかけた僕が一番悪いんだけどね」 「呪いだぁ?」 「長々と説明するのも面倒なんだけど…… おじさん、僕と一人で二人になっちゃいました。おじさん、僕の手を離すと『死ぬよ』。だから僕の手をずっと握って僕のことを守ってね」 「はぁ? 何を意味のわからないことを言ってるんだ」 「いいから! とにかく今は僕のことを守って! 安全が確保出来たら事情は説明するから! 来るよ!」 儀式部屋にスコロドン始め、包囲班が雪崩込んでくる。儀式部屋からの銃声を聞き撤収準備をしていたのだが、実行班が来ないために何かがあったことを察して包囲班は、包囲の任務を放棄し、全員で標的(ターゲット)がいると思われる儀式部屋へと向かったのであった。 「叔父貴…… これは一体……」 そこにホークロウが全員に無線連絡を入れる。 〈ベニーの奴が下手打ちやがった。今、ベニーがガキと一緒にいるだろ? そのガキは悪魔だ。ベニーは悪魔に魂売りやがった。さっさと二人共殺せ〉 包囲班は困惑する。ベニーからすればいきなりの親父(ファーザー)からの抹殺指令に困惑するばかりだが、このままでは袋のネズミのように殺されると察していたベニーの行動は早かった。なんと、包囲班に向かって残っていた自動小銃の斉射を行ったのである。 包囲班からすればいきなり撃ち殺されただけであまりに不条理である。包囲班の屍を上にしてベニーはインカムのボタンを押す。 「親父(ファーザー)…… どういうことか説明してもらいましょうか」 〈ベニー…… 生きてるのかぁ?〉 「実行班も包囲班も全員殺りました。邪教徒も全員殺りました。生きてるのは自分と生贄の少年だけです」 〈家族(ファミリー)より、悪魔のガキの命ってか。お前はとんでもねぇ奴だな〉 「いいから答えろ! 悪魔のガキってどういうことだ!」 〈フン、ガキに聞いてみるんだな。ま、ガキの話を聞く前にせいぜい死なねぇこった。そうそう、お前は絶縁だ。ペペロンチーノ一家総出でお前ら二人殺しに行くからそのつもりでな〉 「おい! どういうことだ! 答えろ!」 ザザッ ホークロウとの通信は途絶した。ベニーは舌打ちを放ちながらインカムを耳から引き抜き、粉々になるまで踏み潰す。 「行くぞ」 「どこに?」 「知らねぇよ」 ベニーと少年の逃避行がこれより始まる……
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