プロローグ

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森の奥より悲鳴が聞こえる。自動小銃の弾が当たったのか、掠めたのか。いずれにせよ死は間違いない。 森の奥より何やら太陽の光に反射してキラキラと光るものが飛んできた。 火炎瓶だ。 男はそれに対して反射的に自動小銃の銃口を向けて引いてしまった。火炎瓶のガラスが粉々に砕ける。辺りにガソリンが飛び散った。火炎瓶の口に付けられていた導火線代わりの新聞紙に点いていた火がガソリンに燃え移り激しく燃え上がる。男はそれに巻き込まれて激しくその体を燃やす。 青年は瞬時に消火作業に入ろうと考えて叫ぶ。それと同時に胸にぶら下げていた手榴弾(グレネード)を森に向かって投げた。森の中にあったゲリラの気配は青年の投げたグレネードの一投げで消えてしまった。 「メディック! メディーック! 消火器だ! 早く!」 メディックが消火器を持って一目散に駆けてくる。そして、男に向かって消火器を懸命にかける。男は消火液の中で暫くぴくぴくとのたうち回った後でその動きを止めた。 「メディック! どうなんだ! 助かるのか?」 メディックは俯いて首を横に振った。そして、カーキ色の鞄より注射器を出した。 「何をするんだ!」 「モルヒネです。せめて皮膚が焼かれる痛みから逃れながら我らがお父様の元に召されるように」 すると、恰幅が良く胸に大量の勲章を付けた男がのっしのっしと歩きながら現れた。 そこにいた者たちは勲章を付けた男に一斉に敬礼をする。 「ご苦労さまです!」 「うむ、邪教の村の殲滅は進んでおるかな?」 「今しがた、残党のゲリラ兵を殲滅したことで終わりました」 「うむ、それでは引き上げだ」 勲章を付けた男はくるりと踵を返した。青年は彼に向かって叫ぶ。 「あの! 今の襲撃で同志が一人炎に巻かれてしまいました」 勲章を付けた男は消火液に塗れた男の姿をじっと眺める。一目見ただけで無駄だと察したのか横に首を振る。 「戦争ともなれば兵士が死ぬのは仕方ないだろう。可哀想に……」 「か、可哀想って…… それだけですか?」 「それ以外何がある? 恨むなら無思慮に抵抗した邪教の村の奴らを恨めばよろし。さぁ行くぞ」 すると、消火液に塗れた男が突如うめき声を上げ始めた。熱いとも痛いとも叫べない声なき声が辺りに響く。 「おい! メディック! 早くモルヒネを!」と、青年が叫ぶ。
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