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メディックはモルヒネを注射しようとしたが、勲章を付けた男にその手を止められる。
「何をしとるね」
「痛みもなく、我らのお父様の元に召されるように……」
「こうすれば早いではないか」
勲章を付けた男は腰から拳銃を引き抜き、消火液に塗れた男の頭に向かって銃爪を引いた。
軽く乾いた銃声が響いた。勲章を付けた男は呆れたような口調で言う。
「モルヒネだって貴重なんだよ。治る見込みのある者に使うのが常識ではないか。全身火傷で治る見込みのない者に使って無駄になるだけだ」
「ですが!」
「もう彼は殉教したのだからよいではないか。気にするな。もう彼は邪教の村の殲滅任務の功績を以て楽園に行っているのだから気にするな。がははははは」
そう言いながら勲章を付けた男は村の外に停めていた軍用ヘリコプターに乗って去っていくのであった。村の外にカーキ色の輸送用トラックが続々と停車する。それを見て一人の男が皆に叫ぶ。
「本日は邪教の村の殲滅任務、ご苦労であった! 我らが天におわしますお父様も喜んでおられる! それでは、撤収!」
皆、続々とトラックに乗り込んでいく。消火液に塗れ頭を撃たれた男は死体袋に入れられ担架で運ばれて行く。それを見て青年が同僚に尋ねた。
「あいつ、どうなるんですか?」
「邪教の村殲滅の際の戦死者として殉死って形になるな。荼毘に付した後は本国の家族の元に贈り届けられる」
「燃やされて殺されて、更に燃やされるんですか」
「魂と肉体はワンセット、肉体があると魂は楽園へと昇ることは出来ない。我らがお父様が言っていることだしな。仕方ない」
「それなら、俺たちが今日、殺した奴らはどうなるんだ」
「はぁ? 我らのお父様を信じずに悪魔崇拝やってたんだから地獄行きに決まってるじゃないか。そのまま放っといて野良犬の餌にでもしておくのが上等じゃないか」
「我らがお父様は全ての人類を救済するお方ではなかったのか?」
「ああ、全ての人類を救済する方であられるぞ。しかし、信じる者のみだ。信じない者がどうなろうと知ったことではない。特にこの村のように悪魔崇拝なんてやってる奴らなんか救う腹すらもねぇよ。さっさと帰るぞ、トラックが行っちまう」
青年はトラックに乗り、座りながら眠りに就いた。
その中で見る夢は…… 女・子供・老人に自動小銃を向けるものであった。彼らは必死に生を懇願するが、その懇願の言葉に耳を傾けずにただ機械的に銃爪を引く。その光景が延々と繰り返されるのである。
自分が数時間前に行った行為がそのまま再生される……
夢の中の自分は躊躇わないし、現実の自分も躊躇わない。
なぜなら…… 我らがお父様の神託に従っただけである。
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