1 襲撃

1/14
前へ
/72ページ
次へ

1 襲撃

 神聖真光軍を辞めたベニーは退職金と年金で悠々自適の暮らしをしていた。だが、これまで血で血を洗うような世界にいた彼にとって平和…… いや、宗教によって統制された去勢された羊たちの楽園のような世界は退屈そのものであった。近所の人と話をしても「今日の神託」や「ネェル・ファザーは素晴らしい」と言ったロールプレイングゲームの村人が話すようなコピーペーストのようなセリフしか返ってこない。楽しみと言えばテレビで放送される領土拡大のニュースぐらい、自分が去った後の神聖真光軍の頑張りが嬉しいのであって、領土拡大された嬉しさは微塵もない。 やはり自分には血で血を洗う戦場しか似合わない。しかし、無辜の民を殺し悪の道(政府からすれば絶対正義)を往った身としては復帰は出来ない。 そこで次に選んだ道はマフィアだった。ベニーは残った退職金を上納金にしてマフィアの門を叩いた。そのマフィア・ペペロンチーノ一家(ファミリー)首領(ドン)・ホークロウは「元軍人がカネ貢いでまでマフィアになりてぇとはなんと面白い」と、笑いながらもカネが入ってくるのが嬉しかったのか即日採用するのであった。 マフィアとなったベニーに訪れたのは驚きの毎日だった。まず始めに任されたのがフロント企業の金貸しだった。新聖教会に対するお布施の料金の貸付、つまり、一般人がお布施が払えなくて借金すると言う現状を知ったのである。お布施が払えなくて亡命しようとした家族を全員射殺した経験があるベニーにとって晴天の霹靂とも言える事実だった。 ちなみにエリュホーム国では税金は存在しない。名前がお布施になっているだけで使い道は税金と変わりはない。 次にみかじめ料の徴収を任されたのだが、ここでもぶつかるのはお布施だった。大半の店は揉み手でみかじめ料を払ってくれるのだが、一部の零細の店は、神聖教会に払うお布施が払えなくなるとみかじめ料を拒否するのであった。そこで、自分の金貸しの紹介である。 ベニーはこれを「悪どい真似だな」と、唾棄するも。こうして無限に搾取するシステムでお互いに回っている以上は黙認し、受け入れざるを得なかった。 密造酒、武器密輸、ポルノ製造、風俗店オーナー…… ベニーの仕事は多岐に渡った。これら全てはユウヅツ教にとって反するものである。ユウヅツ教を信仰していてこれらを行うことがあれば即座に罰則を食らうものである。当然、神衛隊(警察)や神聖真光軍が取り締まるべき対象である。ベニーも軍にいた時は正義の名の下にこれらを罰してきた。 しかし、自分が罰される側に回るとなっては命が危うい。そこで、過去の経験を活かし、神聖真光軍の部下を通じて多額の賄賂を送ることで見逃して貰うのであった。こうしてパイプが出来たことにより、神聖教会(政府)とマフィアは蜜月の関係となるのであった。 ベニーはその功績から僅か数年でマフィアの幹部にまで登りつめた。 神聖教会とマフィアを繋いだ功績も勿論だが、ベニーが一番活躍したのは他のマフィアとの抗争だった。長い神聖真光軍の間に殺した人数は数え切れない。今更人を殺すなどなんとも思わない。撃ち合いになれば一騎当千、剣林弾雨の嵐をハンドガン一丁で駆け抜け相手の自動小銃を奪いそのまま殲滅にすることなど朝飯前。単騎で個人武器庫と渾名されるぐらいの銃火器を持ち込み敵対マフィアの事務所に突撃(カチコミ)をかけて全員殲滅することもあった。これには先輩マフィアもベニーに対して恐怖と畏れを感じるのであった。 尚、大量殺人の罪であるが例によって賄賂で有耶無耶とされている。神聖教会サイドからすれば表には出せないが自由に使えるお布施が入ってくると万々歳であった。尚、殲滅されたマフィアも神聖教会とは蜜月の関係である。 エリュホーム国ではマフィアの抗争とはいわば、蠱毒のようなものである。最後に生き残ったマフィアが強い。複数のマフィアが存在することで分散していた利益の奪い合いが行われている群雄割拠の体を成しているのであった。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加