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そしてなにより、流山先生が怖かった。
まず分厚い眼鏡。加えて、まだ若いのに、白髪が目立つぼさぼさの髪に、なにかと眉をひそめる癖。多少荒っぽい診察。笑うことは滅多にない。
子どもの診察の最後には、決まってシールをくれるが、そのときも無愛想にほいっと渡すだけ。
そんな先生を、そうだ、子どもたちは影で「死神博士」って呼んでいたっけ。医師に対して「死神」とは失礼極まりないが、その風貌は、その呼称がぴったりだったと今思い出しても思う。
だが、地域の人の信頼は厚かった。
なんでも近所の噂話では、東京の有名な医大を出、大学病院で研修医を勤めたあと、過疎地域での医療に興味を持って、わざわざ知人も親戚もいない私の住む田舎にやってきた、という話だった。
それだけで、田舎ではありがたがられる存在であったわけだが、加えて、腕も悪くなかった。
「いやあ、流山先生のおかげで、リューマチ良くなってきたよ」
「うちの婆さんも胃の調子が良いと言ってるよ。いや、若いのにたいした先生だて」
そんな会話が待合室では繰り広げられていたのを、ぼんやりと思い出せる。
でも、子どもにとっては、流山先生は恐怖でしか無かったのだ。
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