流山医院

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「うわわーん!やだやだ、注射やだ!」 「ぎゃーん、イタイー!しみるー!!」  診察室からはそんな子どもの泣き声が、ひっきりなしに聞えていたように記憶している。  かくいう私もそうだ。 あれは小学3年生の初冬だったか、しつこい風邪を引いた私は母に半ば引っ張られて、流山医院に連れて行かれた。 「ふーむ、咳がこれだけ長く続くと、マイコプラズマ肺炎かもしれません。血液検査が必要ですね」  流山先生はそう言うと、私の腕を有無を言わさず引っ張って、セーターの袖をまくり上げ採血の準備をさっさと始めた。  看護師さんがテキパキと消毒をし、腕をチューブで縛る。私は突然のことに固まり、そして流山先生が手にしたぶっとい注射器を見て、火の付いたように泣きわめいたのだった。 「わー!!嫌!!イタイのやだ!!」  でも流山先生は容赦しない。暴れる私を看護師さんと押さえつけると、ぶすっと右腕の血管に躊躇せず針を刺した。 「ぎゃーん!!」  ……あのときの恐怖は大人になった今でも忘れられない。  そして診察の最後に“せめてものお愛想”とでも言うように、流山先生は無言でキャラクターもののシールを渡してくれた。私は泣きながら、シールを受け取った。  でも、流山先生の見立て通り、私はたしかにマイコプラズマ肺炎だったので、その後、街の大きな病院にちょっとだけ入院した。そして、1週間後には、貰ったシールを、居間にあるカレンダーのクリスマスに貼り、プレゼントは何をサンタさんにねだろうかと思いを巡らすぐらいに元気になった。  なので、やはり流山先生は腕の良い医者であったのだろう。
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