不登校の神様

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不登校の神様

 卒業式――  期待に胸が張り裂けそうな顔をした男子生徒もいれば、今にも泣き出しそうな顔をした女子生徒もいた。  そして、僕は式のさいちゅう、なんでここにいるんだろうとずっと思っていた。  卒業生一人一人の呼名が続く。  僕の名前が呼ばれたとき僕は返事しなかった。  でも、呼名している担任にもそこにいる誰にも気づかれず、すぐに次の生徒の名前が呼ばれた。  僕がここにいてもいなくても世界は回る。  たとえいなくなっても、世界はすぐに僕を忘れるだろう。  卒業生全員の呼名が終わり、呼名された全員の卒業を許可すると壇上の校長が重々しく宣言する。  僕は卒業したらしい。  少なくとも未来、僕はまだ君から卒業できない。  四月から袖野高校に進学するけれど、君がいない世界に慣れることはないだろう。  在校生送辞。  送辞を読み上げるのは二年生の現生徒会長の海野雪。それほど仕事ができるとはいえなかったが、明るくて素直で気持ちのいい女子生徒だった。僕が生徒会長だったとき、彼女は書記だった。事務仕事が苦手という自覚があって、僕から仕事を教わるときは忘れないように必ずメモを取っていた。堂々と送辞を読み上げる彼女を見て、この中学で僕も少しはいいことをしたのかなと少しうれしくなった。送辞の文面の中にさりげなく僕への感謝の言葉も含まれていた。今では僕はただの落ちこぼれ。落ちこぼれた前生徒会長のことなんて忘れて、君は君らしくみんなに愛される生徒会長として学校を引っ張っていけばいい。それが僕の答辞。それを君に聞かせる気はないけれど。  在校生送辞が無事終わり、次は卒業生答辞。読み上げるのは前生徒会副会長の高木李夏。先生から頼まれたのは前生徒会長の僕だった。一月に後藤未来に死なれてからすべてにやる気を失っていた僕はそれを辞退して、勝手に李夏を推薦した。李夏はまるで秘かにやりたがっていたみたいに、一言も僕に文句も言わず代役を引き受けた。でも李夏はもともと人前で話すのが苦手というか嫌いなやつだった。クラスが違うからそれほど李夏の生活ぶりに詳しいわけじゃないけど、たまに見かける李夏はいつも一人だった。いじめられてるとか無視されているとか、別にそういうのではない。女子たちにも遊ぼうってよく誘われてたけど、病院に行かなくちゃいけないからといかにも残念そうに断っていた。  李夏は背は170cmあるし、ショートカットでボーイッシュな雰囲気。でも実は体育は見学してばかりの病弱少女。そのギャップがいいと男子たちがよく言い合っていた。何人か告白した者もいたけれど、みんなフラれた。ギャップがいいとか言い合っていた連中はフラれると今度は、お高く止まりやがってとけなし合った。  「人間なんて勝手なもんだな」  僕がそう言うと、李夏が笑った。  「一番好き勝手に生きてる憂樹君のセリフじゃないよね」  「僕のどこが一番好き勝手に生きてるんだ?」  「あはは。無邪気にそういう質問ができちゃうところ」  「はぐらかすなよ」  「あはは。中学を卒業すれば分かるんじゃないかな」  そう言われたけれど、たった今中学を卒業したはずなのにいまだに分からない。卒業しただけで結局僕は僕でしかなかった。無力でやる気なくて何一つ分かってない存在でしかなかった。
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