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途切れた道の先を再び歩き始める気は、なくなったみたい。
さっきまで渦巻いていた私の身体の熱も、少しずつ引いていった。
ベッドのうえで身体を起こしたところで、見上げた啓太と目が合う。
「宅配便?」
「うん。実家から。今朝届くの忘れてた」
ほんの少し申し訳無さそうに苦笑して、荷物を手元によせ伝票を確かめている。
「地ビールを送ってくれたみたい。ほら、前話してたやつ」
「ええと、みかんを使ったビール?」
「夏菜が飲んでみたいって言ってたから、送ってもらったんだ」
「えー嬉しい。飲んでみたいな」
「流石に朝から飲んじゃうのは」
「そうね」
ベッドから降りて啓太の横に座る。
「ねえ。今夜飲もうよ」
「そうしよっか」
「じゃあ、一度帰ろうかな。シャワー浴びたいし、服も着替えたいし。それにちょっと眠たい」
啓太の顔を覗き込むと、うん、と頷く。
何時間か前と同じ。
そばに置いてあったポシェットを手に取り立ち上がって、台所の横をとおり玄関へと向かう。
違うのは心の中が全く違う気持ちで満たされていること。
みぎ、ひだりとパンプスに足を滑りこませ、玄関のドアノブに手をかけたところで振り返る。
「駅まで送ろうか?」
「もう朝だし大丈夫だよ」
そう返してもずっと啓太を見続ける私に「?」な表情を浮かべる。
唇をほんの少しだけ尖らせて、顔をちょっと上げて。
ああ、と理解した表情が、ゆっくりと微笑みに変わって。
楽しみをとっておくように、ほんの少しだけ唇を重ねて。
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