がた、がた、がた。

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 男同士ってやっぱり気楽だし、Aと一緒にそういう先輩達の家に突撃するのも珍しいことじゃなかった。再三言うけど、うちの学校はマンモス校だ。北海道から沖縄まで、すごい遠いところから来て、一人暮らししながらうちに通う生徒も少なくないんだ。特に男はそう。実家通いじゃない人のところなら、突撃してもそうそう迷惑はかからないだろ?  で、B先輩の家なんだけど。ちょっとびっくりした。ボロボロのアパートかと思いきや、結構綺麗なマンションなのな。オレンジ色の煉瓦で、オートロックじゃないけど家族連れが住んでいてもおかしくなさそうなとこ。しかも、駅から十分くらいしか離れてないんだ。  東京の住宅事情知ってる人なら想像つくだろうけど、親の仕送りとかバイトとかでどうにかやりくりしている大学生がそんな金なんか持ってるわけない。とてもじゃないけど、貧乏学生が家賃払えるようなレベルのとことは思えなかったんだよ。  先輩に連れられてマンションの中に入ってびっくり。まさかのワンルームじゃない。3LDK、家族連れで住んでいてもおかしくなさそう、って俺の印象は間違ってなかったわけだ。なんでこんな広いとこ一人で住めるの!?って俺が口をあんぐりさせたのに先輩は気づいたんだろうな(ていうか、Aもこの家に来たのは初めてみたいで、おんなじようにびっくりしてた)。先輩はこう言ったんだ。 「聞いて驚け。この部屋、バリバリの事故物件ってやつだ!」  マンションの他の部屋はそこそこの家賃なのに、●階の一番隅、●号室だけは家賃がびっくりするほど安かったんだ。あのでかい駅の駅チカで、毎月の家賃一万円なんて普通ありえないぞ?しかも3LDKだ。一体何がどうしてそうなったんだ、と言えば。 「なんでも、前の住人が監禁殺人事件を起こしたらしい。リフォームはされてるけど、その事件がかなりひどいものだったらしく。その後誰も寄り付かなくなっちゃったってんで、どんどん家賃が下がっていったんだとさ。いやはや、俺は幸運だったね!」  先輩は、自分は零感だから全く問題ないんだ、と言っていた。だから幽霊なんか出ても気づかないし、いっそ遭遇してみたいくらいだからこの物件を選んだのだと。  俺はマジかよ、と思った。いや、別に幽霊とかそういうのを信じてるわけじゃないんだけどさ。一万円でこんな物件に住めるのとかマジ最高だとは思うけどさ。だからって、監禁殺人事件があったようなところに、なんで笑いながら住めるんだろうか。  その事件の概要を、ざっくりとだけど先輩は教えてくれた。  なんでも、その家にはカップルが二人で住んでいたらしい。いわゆる事実婚ってやつだったんだと。  最初は仲睦まじく住んでいた二人だったけど、男の仕事が忙しくなって自分を構わなくなっていったことで、女がどんどん疑心暗鬼に嫉妬深くなっていったとか。ついには、男が仕事の同僚と浮気をしている妄想に取り憑かれてしまったんだと。  女は男を自分だけのものにするために、男を眠らせて押入れに閉じ込めたんだそうだ。そして、押入れに板を打ち付けて、絶対に開かないようにしてしまった。  目覚めた男は、真っ暗闇の中でパニックになって、手が血まみれになるほど押入れの襖を叩き続けていたらしい。――そして、最終的には酸欠と脱水症状で死んでしまったんだとか。それが数年前のことだという。
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