がた、がた、がた。

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「すみません、先輩。明日課題があるし、俺達そろそろ帰ってもいいですか?」  課題?そんなのあったっけ?と俺はAを見て気づいた。Aの顔色は真っ青だ。これは、この部屋を出る口実なんだと気づいた。しかも、本当のことを言わないということはつまり――B先輩にも隠しておきたいということだ。 「あ、そうだったのか?それなら早く言ってくれよ。駅まで送っていこうか?」 「大丈夫です。ていうか、B先輩俺達より酔ってるし、歩いていて側溝に落られても困るし。失礼します」 「あ、うん。そうだな。すみません、B先輩。俺も行きます」 「マジか。そうかそうか、なら気をつけてなー」  突然帰ると言い出したにも関わらず、先輩は特に違和感を覚えなかったようで、引き止めてくる気配はなかった。単に酔っていてそこまで頭が回らなかったのかもしれないが。  こんな会話をしている間も襖と板はガタガタと鳴り続けていて、俺は歯がガチガチ鳴りそうになるのを必死で堪えている状況だった。Aがいてくれて本当に良かったと思う。俺一人だったら、完全にパニックになっていたかもしれない。 「あ、ありがとうございました!失礼します!」  悲鳴のようにどうにかそう告げて、俺は荷物一式を持つと転がるようにその部屋を出た。俺達のそんな様子をよそに、先輩は一人でバラエティを見て笑い続けていた。零感というのは本当なんだろう。羨ましいことこの上ない。  ただ。 「なあ、A……お前も聞こえたんだろ、音。いいのかよ、先輩に何も言わないで出てきて」  マンションから出て、駅に向かう道の途中で俺は言った。先輩には確かに音は聞こえてないみたいだったけど、だからって“何かがいる”ってことくらいは教えておいても良かったんじゃないだろうか。そもそも、音が聞こえてないからといって先輩が安全だとは限らないんだからな。  するとAは険しい顔で振り返って、気づかなかったのか?と言ってきたんだ。 「……監禁事件があったのは、数年前だろ。で、その後リフォームして先輩に部屋を貸してる」 「おう、そうだな。それが?」 「……被害者が押入れに監禁されていたのがわかったのは、板を外して押入れの遺体を発見したってことだろ。じゃあなんで、未だに板が張られたままになってるんだよ」  確かに、それは俺も少し妙だとは思った。リフォームしたというのなら、押入れも綺麗に掃除したはずだ。あんな風に板を貼っておいたら、いかにも呪われていますと言わんばかりではないか。  ただ、実際、俺達はあの襖から凄い音が聞こえてくるのを聞いてる。何かがあの中でガタガタしてたのは疑いようがない。ならば、あの板を張ることで、そういう悪いものを封印しようとしていたというだけのことではなかろうか。勿論、個人的にはそこまでやばい部屋ならきちっと除霊してから貸せよ大家!と言いたいところではあるが。 「板も釘も新しかったから、ここ一年くらいの間に張替えたんじゃねぇのかな。仮にそれが何かを封印するためだったとして。……板なんか張って、物理的に閉じ込められるようなもんかよ、怨霊なんか。そもそも、そんな怨霊がいるような部屋を大家が貸してるってのがまずおかしい」  Aは声を潜めて、こう続けたのである。 「なあ。……B先輩はさ。本当にあの音、聞こえてなかったと思うか?」
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