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他の女子社員達は、自分が標的になりたくないがために彼女を助けようとはしなかった。男の部長は事なかれ主義であるし、そもそも忙しくて会社にいないことも多い。狭いオフィスはあっという間に、私が支配できる絶対の領域となったのである。
そして、そんなことを繰り返して一ヶ月――彼女は自宅マンションから飛び降りて、自殺したのだった。
『お前のせいだぞ……!パワハラで訴えられたら、どうしてくれるんだ!』
上司にそう言われた時、私はむきになって怒鳴り返した気がするが、あまりよく覚えていない。
私にだって事情がある、悪いのは仕事ができないあの子だ、私はあの子が成長できるように注意してあげていただけだ――そんなことを繰り返し言った気がする。成長できるように、なんて。そんなことも、欠片も思っていなかったくせに。
私は自分の非を一切認める勇気がないまま、ヤケ酒を飲んで階段から落ち、あっさりと死んだ。そうして今、この場所に転生して思い知っているのである。
理不尽な理由で、絶対強者から虐げられる恐怖を。
そこからけして逃げられない、逃げる術も思いつかないほどにじわじわ追い詰められていく絶望を。誰も、誰一人助けてはくれないという現実を。
「は、はは……っ」
思わず、笑みが溢れた。もう奥様は見ていない、それならいいか――思った瞬間。笑い声と一緒に、ぽろりと頬を雫が伝い落ちていく。
「はははっ……はははははっ、あはははははっ!」
泣きながら嗤う私を、他のメイドは気持ち悪そうに見るばかりだった。私は雑巾を持つ手を動かし、泣き笑いを続けた。悲しいのは、己が虐められている環境が辛いだけではない。
なんせ今更罪を理解しても、もう取り返しはつかないのだ。
痛みを知ったがゆえの涙は、もはやこの地獄では誰にも拭われることなどないのだから。
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