Scene.14 君に伝えたい言葉

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自由の手術はなんとか終わった。 でも成功とは言えない。 ――数日後 残酷な現実に太郎はなにも言えなかった。 それでも場を和ますために明るく振る舞う自由。 「君の膵臓をたべたいって映画あったじゃん?」 「え?」 「いい話だよね」 「あ、うん」 「影無くんの脊髄しゃぶっていいかな?」 「君はさらにと恐ろしいことをいうね」 「同物同治だよ。  薬膳っていう中国の健康法にさ。  そんな言葉があるんだ」 「自分の体の悪い場所を食べれば治るってやつだよね?」 「うん。  焼肉屋さんにさ脊髄ってあんま置いてないからさ」 「そうだね」 「だから太郎くんの脊髄なら食べてもいいかなと」 「えー」 「ちょっとだけしゃぶらせてくれない?  ちょっとだけ」 「えー、もう仕方がないなー」 太郎はそう言って苦笑いをした。 「あはははー太郎くん優しい」 「そっかな」 「うん」 再びやってくる沈黙が怖い。 なので自由は会話を続ける。 「『君の膵臓をたべたい』ってさ。  あれ膵臓だから売れたのかな?  私みたいに『膵臓をしゃぶりたい』だったらまた世界は変わったのかな?」 「どうなんだろうね。  なんか想像するとホラーっぽいね」 「私も書こうかな」 「え?」 「死ぬ前にやりたいことリスト100選」 「100個もあるの?」 「わかんない、でもやりたいことは沢山あるよ」 「そっか、そうだよね」 「『男の子の名前を下の名前で呼びたい』は叶ったからあと99個!」 「そうだね」 「あれ?気づいてたの?  嫌じゃなかった?」 「うん、影無くんじゃなかったし。  でもよく考えたら久留里先生と区別するため自由さんのことを下の名前で僕も呼んでいるから……  それになんか嬉しかった」 「そっか。嬉しかったか。  じゃこれから君は太郎くんだ!!」 「うん」  太郎は小さく笑った。
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