Scene.01 僕の歌

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太郎はその後、検査をしたあと退院をした。 父の運転する車の中。 太郎は帰りたくないと心のなかで連呼した。 「太郎」 父の言葉に太郎は耳をふさぐ。 家に帰るまではいい。 でも明日からの学校が嫌だ。 そうおもった。 母が言う。 「太郎着いたわよ」 「……」 太郎は覚悟した。 明日から引きこもろう。 そして顔をあげる。 そこは見慣れない家がある。 「念願のマイホームだぞ」 父が言った。 「え?ってかここはどこ?」 「新しい家だ。  父さん気づいたんだ。  あのマンションの家賃とこの家のローン。  比べたらそんなに変わらないってことにね」 太郎はすぐにそれが嘘だと思った。 引っ越してくれた。 しかも自分に気を使って…… でも、それを言葉にできるほど太郎は子供ではなかった。 今はその言葉に甘えよう。 そう思った。 「そうなんだ……」 「今週は学校は休んで来週から頑張れる?」 母の言葉に太郎は震える。 「あの学校には行きたくない」 「あの学校には行かなくていいぞ。  転校しよう。そこで新しい学校生活だ。  でも、嫌なら行かなくていいぞ」 父と母の優しさは十分に伝わった。 でも怖かった。 何もかもが。 でも思う。 ――嫌なら死ねばいいや     どうせ僕が死んでも世界は変わらない。 「がんばるよ」 がんばりたくはない。 でもここで駄々をこねるほど太郎は子供じゃなかった。 太郎は車の中から出た。 太陽が暑く眩しい。 手のひらで光を遮る。 それでもやっぱり眩しかった。
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