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目立たず。
隠さず。
そっと生きる。
親しい友だちなんて作れるわけもなく。
太郎は中学を卒業した。
高校は近所の市立の学校を選んだ。
高校に入学して暫くすると太郎はそっと両親に行った。
「僕、バイトするから」
「え?」
洗い物をしている母親が驚く。
「どこでバイトをするつもりなんだ?」
「家の近所の喫茶店かな」
「喫茶もえもえ?」
「うん」
太郎は小さくうなずいた。
「学校に行きながらバイトをするのか?」
「うん」
「ちゃんと両立できるか?」
「うん」
「そうか……」
父は優しく笑った。
すぐに喫茶もえもえに電話をかけ面接の予約をした。
数日後、太郎は喫茶もえもえに面接に来た。
若い女性がオーナーを務めるのが山田萌。
父親からその店を譲ってもらったその店で旦那と二人三脚で店を切り盛りしている。
ちなみに父親はまだ健在で毎日釣りをして定年生活を楽しんでいる。
萌は軽い雑談をしたあと。
太郎に尋ねた。
「どうしてウチで働きたいの?」
「内気な性格をなおしたいんです」
「そっか」
萌と太郎ははじめましての関係ではない。
何度か喫茶もえもえに客として顔を出している。
萌も太郎のことを噂程度に知っている。
「ダメでしょうか?」
「うんん、採用しようかなと思っているよ。
そのうち料理とかもやってもらおうかなー」
「はい、がんばります!」
太郎は小さく笑った。
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