お地蔵様、はじめました

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 その日、江戸伝馬町にある牢屋敷の前に人々が集まっていた。これから市中引き回しのうえ打ち首に処される大悪党、その者が門から出てくるのを今か今かと待ちわびているのだ。  徳川が幕府を築いてから二百年。かの者ほど犠牲を出した者はそういるまい。死者四百四十名、行方不明者重軽傷者を合わせれば、その数千四百人にものぼる。  集まった者たちの中には、負傷者本人や犠牲者の家族もいる。かの極悪人の、死の恐怖で歪んだ顔を拝み、その身に石の一つでもぶつけてやらねば腹の虫が収まらぬ。  殺気立った空気が牢屋敷に集中する中、その門がゆっくりと開いた。  そして、場違いなほど凛とした声が辺りに響く。  「お地蔵様、はじめました!」
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