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ショカの村。
周りを森に囲まれた凹地にある隠れた農村、という印象を受ける。
広い畑に藁の家。
都会の人間が想像する、のんびりした田舎の風景……を絵に描いたような村だ。
……不謹慎だが、ここで火事が起きたら為す術もないだろう……と、ナギトは考えた。
「お客人、こちらへどうぞ」
「のんびりしていて素敵な村ですね」
(……野菜を育てる農業と、木を薪にする林業が生活の要になっているようだな)
ナギトは村の人間を観察し、そう仮定する。
「ありがとうございます。……っくしょい! 失礼……。こちらが宿です。何もない村じゃが、ごゆっくりお休みなされ」
「ご厚意、感謝します」
「助かる」
案内を終えた村長は、先ほどの木を切りに戻っていった。
ナギトとニーナは宿に入る。
すると、受付で本を読んでいた女性が2人に気付き、明るい声で出迎えた。
「お、久しぶりの客だ。いらっしゃい!」
「2人分の部屋、空いてますか?」
「もちろん空いてるさ。今日はあんたたちの貸し切りだ」
「……えっと、他に泊まっている人がいないんですか?」
受付の女性はきょとんとした顔をしてから、大きく笑う。
「はっはは! まー、そりゃそうなんだが、改めて言われると面白いな! ……ったく、村で病が流行りだしてから、ちーっとも客が来なくなっちまったんだ。細々と貯金を切り崩す毎日よ!」
「それは大変ですね……」
ナギトは情報収集の為に話題を切り出す。
「……村人は全員が病にかかっているわけではないのか?」
「ん? そりゃそうさ、少なくともあたしゃピンピンしてるよ。特に辛そうなのは村長さんだけど、他は……誰がどうだったかな……覚えてないわ」
「病が流行りだしたのは、どれくらい前からだ?」
「そうだねぇ、1か月前くらいかな……体感だけどさ」
「……そうか。感謝する」
「それを聞いてくれるってーことは、もしかして調査に来た冒険者さんかい? いやぁ、ありがたいねぇ! 早いとこ解決して、早いとこ客に戻ってもらわないと商売上がったりだ! 頼むよ、お二人さん!」
「えぇ!? あの、ちが……もがもが……」
「似たようなものだ」
否定しようとするニーナの口を、ナギトは水の腕で軽く抑える。
ニーナも何かを察したのか、渋々ながらも従った。
「んじゃこれ、部屋の鍵ね。ごゆっくり!」
「……鍵が足りないぞ」
「おっと、こりゃ失礼。仲睦まじい夫婦かと!」
「俺はただの護衛だ……」
ナギトは水の腕を解除し、ニーナと共に宿屋の2階へと、階段を登った。
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