第一章 依頼

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「相分かった。して凪都よ、お前をへ呼んだのは他でもない。一つ頼みがあっての」  声は後ろからしている。  いつの間にか移動して……。  そういえば。ここは何処(どこ)だ?  辺りを見渡すと、古い豪邸の日本家屋、あるいは神社の(やしろ)のような木造の部屋にいることが分かった。  コックリさんは縁側(えんがわ)に座っている。  俺はゆっくりと立ち上がって、縁側から外を見た。 「ここは、あの世か?」 「そうとも言えるし、そうで無いとも言えるのう。天国地獄に煉獄やら上位世界、彼岸にヴァルハラ……さてさて、ここは何と呼ぶのやら」  小さな木板の階段の先には、地面ではなく一面の水が広がっていた。  空は夕日に照らされて茜色に染まっており、秋の夕暮れを感じさせる。  コックリさんの隣に座り、足元の水を少し手ですくってみる。  澄んだ綺麗な水だ。見ただけで分かる。 「それで、頼みとは?」 「そうじゃそうじゃ。おほん」  コックリさんは今さっき思い出したとばかりに手を叩き、わざとらしく咳払いをして見せる。 「さて、凪都よ。お前は日本の山奥で死んだ。記憶はあるか?」 「思い出したくはない」 「よかろう。可哀想に、苦しんでもがいて……。憐れに思ったわしはお前の魂をここに呼び寄せたのじゃ」  俺は毒で死んだ。それは確かだろう。  今思い出しても 「条件付きにはなるが、日本とは別の世界にお前を転生させてやることができる。そこで二度目の人生を幸せに過ごすが良い」 「条件とは?」 「そう、それじゃ。わしは(ゆえ)あって、生者に干渉できん。死者は別じゃ。そこでお前にはわしの代わりに異世界の危機を救ってほしい」  異世界の危機を救う?聞こえは良いが、そんなのは御伽話(おとぎばなし)の中だけだ。  ……いや、そもそもこの状況が御伽話か。狐に化かされる話というと日本にはいくつもあるな。 「具体的には」 「うむ。異世界〈アーンヴァール〉では現在、一部の地域で瘴気……人体に害のある毒ガスが発生しておる。このまま放っておけばいずれ命が根絶やしになるじゃろう」 「ガスか。ちっ……汚いな。どうせ工場排水とか公害問題だろう。俺にどうにかできる問題では無い」  技術の進歩によって得られるものがあれば、一方で何かを犠牲にしてきたのが人間だ。  因果応報、世界の自浄作用とでも言うべきだろう。 「そうではない。アーンヴァールは剣と魔法の世界。大地には緑が溢れ、妖精や亜人などもおる。機械など存在しておらんよ」 「ほう……?」  それは、少し気になる情報だ。
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