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「相分かった。して凪都よ、お前をここへ呼んだのは他でもない。一つ頼みがあっての」
声は後ろからしている。
いつの間にか移動して……。
そういえば。ここは何処だ?
辺りを見渡すと、古い豪邸の日本家屋、あるいは神社の社のような木造の部屋にいることが分かった。
コックリさんは縁側に座っている。
俺はゆっくりと立ち上がって、縁側から外を見た。
「ここは、あの世か?」
「そうとも言えるし、そうで無いとも言えるのう。天国地獄に煉獄やら上位世界、彼岸にヴァルハラ……さてさて、ここは何と呼ぶのやら」
小さな木板の階段の先には、地面ではなく一面の水が広がっていた。
空は夕日に照らされて茜色に染まっており、秋の夕暮れを感じさせる。
コックリさんの隣に座り、足元の水を少し手ですくってみる。
澄んだ綺麗な水だ。見ただけで分かる。
「それで、頼みとは?」
「そうじゃそうじゃ。おほん」
コックリさんは今さっき思い出したとばかりに手を叩き、わざとらしく咳払いをして見せる。
「さて、凪都よ。お前は日本の山奥で死んだ。記憶はあるか?」
「思い出したくはない」
「よかろう。可哀想に、苦しんでもがいて……。憐れに思ったわしはお前の魂をここに呼び寄せたのじゃ」
俺は毒で死んだ。それは確かだろう。
今思い出しても自分に腹が立つ
「条件付きにはなるが、日本とは別の世界にお前を転生させてやることができる。そこで二度目の人生を幸せに過ごすが良い」
「条件とは?」
「そう、それじゃ。わしは故あって、生者に干渉できん。死者は別じゃ。そこでお前にはわしの代わりに異世界の危機を救ってほしい」
異世界の危機を救う?聞こえは良いが、そんなのは御伽話の中だけだ。
……いや、そもそもこの状況が御伽話か。狐に化かされる話というと日本にはいくつもあるな。
「具体的には」
「うむ。異世界〈アーンヴァール〉では現在、一部の地域で瘴気……人体に害のある毒ガスが発生しておる。このまま放っておけばいずれ命が根絶やしになるじゃろう」
「ガスか。ちっ……汚いな。どうせ工場排水とか公害問題だろう。俺にどうにかできる問題では無い」
技術の進歩によって得られるものがあれば、一方で何かを犠牲にしてきたのが人間だ。
因果応報、世界の自浄作用とでも言うべきだろう。
「そうではない。アーンヴァールは剣と魔法の世界。大地には緑が溢れ、妖精や亜人などもおる。機械など存在しておらんよ」
「ほう……?」
それは、少し気になる情報だ。
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