第2章 アーンヴァール

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「立てるか?」  ナギトは水の腕を差し出し、少女を立たせようとした。 「……?」  少女は怪訝な表情を浮かべる。 「……は、はい。ありがとうございます。……ええと、珍しい魔法を使われるんですね」 「俺は水を自在に操れる。魔法かどうかは分からんが」 「えぇ……と……?」  ナギトは少女の服が土と泥で汚れていたことに気が付き、思いついた魔法を試すことにした。  手をかざして念じると、少女の服についた汚れはみるみる内に消え失せ、まるで洗濯した後のように綺麗になった。 「これでいい。汚れは病気に繋がるからな」 「本当に、見たことのない魔法ばかり……。もしや高名な魔術師様でしょうか?」  ナギトは一瞬の内に思考を巡らせる。  情報の無い現状では嘘や見栄はリスクが高いため、正直に話すべきだと結論づけた。 「違う。俺はこことは別の世界、地球という惑星の日本という国に住んでいた人間だ。死後に依頼を受けて転生し、今に至る」 「……?????」  少女は困惑している。 「(……あっ、もしかして、漂流者(ナガレビト)……?) あの、ご自分の名前は覚えてますか? それと、記憶の混濁は……」 「名前は砂原(さはら) 凪都(なぎと)。ナギトでいい。記憶の混濁はしていない」 「そう、ですか……。私は、ニーナ・ラナと申します。元修道女の回復術士です。修行の旅に出ようとした矢先に、雇った護衛に裏切られて押し倒されました。重ね重ね、危ない所を助けて頂き、ありがとうございました」  ナギトはニーナの話を聞いて、改めて格好を見る。  確かに言われてみると修道女に見えなくもない服だ。  しかし、修行の旅に出るならばいささか身軽さに欠けるのでは、とも思った。 「……それで、こいつらはどうする? 気絶したまま放置するわけにも行かないだろう」 「そう、ですね……。王都セントラルに戻り、事情を説明して投獄してもらうべきですが……。あの、ナギトさん。お手数ですが、彼らを運ぶのを手伝って貰えないでしょうか? もちろん、助けて頂いた謝礼金と合わせて、その分はお支払いします」  悪くない提案だ、とナギトは思った。  そもそもが情報提供者を探していた状況だったので、近くの街の位置を把握することが出来る上に路銀を稼げるのならば一石二鳥だ。  断る理由は無いに等しかった。 「引き受けよう」 「助かります」  どうやって運ぼうかと悩むニーナを尻目に、ナギトは水のロープを作り出していた。  水のロープで3人をそれぞれ縛ると、巨大な水の腕で掴む。 「道案内は頼む」 「……あっ、は、はい!」  ニーナの先導で、ナギトは王都セントラルへと向かった。
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