第2章 アーンヴァール

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 気絶したままの男たちを、見たことの無い水の腕で運んでいる。  それに加えて見たことの無い(防護服)仮面(ガスマスク)。  周囲の冒険者たちは道を開け、遠巻きにどよめいていた。 「なんだアイツ……」 「見たことないな」 「魔法か?」 「新種の亜人かもしれん」 「変な仮面……」  ナギトはそれを意に介さず、ニーナの先導に従って男たちを運ぶ。  ニーナは顔見知りの受付嬢に話しかけた。 「先日雇った護衛3名に襲われました。しかるべき処罰をお願いします」 「……えっ、ニーナさん!? ちょっと……ちょっと待ってね。いろいろとその、情報が追いつかないわ。とりあえず、そちらの方は……?」  受付嬢は恐る恐るナギトの方を見る。  ナギトは威圧感を与えないようにゆっくりと話した。 「俺は砂原(さはら) 凪都(ナギト)。こことは別の世界、地球という惑星の日本から転生してきた。通りすがった森で、襲われそうになったこの女を助け、汚物どもを運んできた」 「……………えぇ……と………???」  受付嬢は困惑している。 「……ナギトさんはおそらく、漂流者(ナガレビト)です」 「ああ、なるほど。それは大変でしたね。ではナギトさんのは後ほど相談するとして……」  (……ナガレビト? 知らない言葉だ)  分からないが、ニーナと受付嬢は納得しているようなので、おそらくは異世界アーンヴァールでの常識なのだろう、とナギトは理解した。 「ナギトさん。とりあえず、3人とも降ろしていただけますか?」 「ああ」  水の腕だけ解除し、その場に落とす。  しっかりと水の縄で手足を縛ったままの状態だ。 「気絶していますね……起きるまで待ちましょうか」 「その必要はない」  ナギトは水の玉を空中に出現させ、それを頭ほどのサイズに調整。  水の玉を男たちの顔にぶつけた。  水の玉は顔面で弾けて水しぶきに変わる。 「うあっ!」 「げへっ!」 「っ!」  急激な冷たさで男たちは意識が覚醒した。 「……ここは……」 「冒険者の皆さん。ニーナさんの護衛についた3人で間違いありませんか?」  受付嬢が強めの口調で問いただす。 「ああ、そうだ。護衛中にいきなり背後から襲われてな。護衛としちゃ情けない話だ」  護衛のうち、リーダー格の男が冷静にそう返した。  (……なるほど。気絶から覚めてすぐに嘘をつける程度の脳みそは備わっているようだな)  ナギトとニーナは勿論、護衛の男が嘘をついていることを知っている。  だが、他人から見たら? 事実を確認する術は無い。 「騙されたのは俺らの方だ。女を護衛させて、そこの兄ちゃんが後ろからズドン! で、ギルドに突き出して金をふんだくる算段か? まったく、悪人はやることがエゲツないねぇ」 「……そ、そうだぜ! 俺らは真面目に仕事しただけだ!」 「げへへへへ! げひゃひゃ!」  ニーナは拳を握りしめ、唇を噛んだ。 「……っ! ど、どの口がっ!」 「ニーナさん……。残念ですが、私には判別しかねます。今回は双方お咎めなしで……」  受付嬢はどちらを信じるべきか迷い、困っている。  ナギトは、この状況を想定していた。
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