02.知らなければ戦えない

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 また頭を下げると、溜め息が返ってきた。 「まず、軍服に、正装と略装があるのは知ってるよね?」 「そ、そこはなんとか」 「式典とか、陛下への謁見とか、そういう晴れの舞台に着るのが正装。個人的な祝いの場でも着ていいことになっている。  それに対して、今着ている普段着が略装」 「ですよね」 「この略装、士官と一般兵で違うのを着てるって知ってました?」 「え!? そうなの!? 袖章だけでなくて!?」  さっきの部隊長の姿を思い出す。いや、別に、同じ肋骨服を着てなかったっけ、と。  また溜め息が響く。 「一般兵のは支給品ですけど、士官は自前なんですよ。基本の造形を守った上で、細かいところは好きに作っていいんです」 「自前って…… 自分でお金払って買うの?」 「作ってもらうんです」  はああ、という溜め息が深い。 「仕立屋に行って、測ってもらって、自分の体にぴったり合うのを作ってもらうんです。支給品だとどうしても、ほら、合わないところがあって格好悪いでしょう?」  そう言って、櫂は颯太の肩を指さした。 「背が高いからって、丈だけを合わせたんじゃないですか? 肩が余っています」 「そのうち鍛えたらぴったりになるから!」 「どうだかね。  ちなみに、大きさだけじゃなくて。色さえ合っていれば、布地も自由だし、飾りをつけるのもお好みです。飾緒とか、この先頂けるだろう勲章や徽章だとか、好きなのを好きなだけ飾れるし」  ふっと遠い目をしてから、櫂は続けた。 「お洒落、という点では副官殿のほうが上でしたね」 「そうだった?」 「部隊長殿は徽章が一個だけだったじゃないですか。あれは、士官学校卒業でもらえるものだったと思います。  副官殿はそれ以外にももっと徽章をつけてらしたし。飾緒も、とてもいい仕立てでしたね。高辻少尉は都の公家のご出身だからそういう薀蓄(うんちく)に詳しいのかも」 「そうなの?」 「部隊長殿は北方から異動で来た人だそうだから、都の流行には通じてなさそうですね」  お洒落に詳しくないと、将校になれないのだろうか。そもそも、何故上司二人の出身を知っているのだろう。う~ん、と颯太は唸った。  すると、もう何度目かもしれぬ溜め息が櫂の口から零れたのが聞こえた。 「不慣れというより、知らないって感じですよね、颯太は」 「う……」 「どうせ、この鎮台が魔物専門だということも知らないでしょ」 「ほえ?」  もはや、溜め息さえ出ないらしい。櫂はひくい声で言った。 「この鎮台には大きな図書室があります。ちょっと勉強してきてください」
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