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また頭を下げると、溜め息が返ってきた。
「まず、軍服に、正装と略装があるのは知ってるよね?」
「そ、そこはなんとか」
「式典とか、陛下への謁見とか、そういう晴れの舞台に着るのが正装。個人的な祝いの場でも着ていいことになっている。
それに対して、今着ている普段着が略装」
「ですよね」
「この略装、士官と一般兵で違うのを着てるって知ってました?」
「え!? そうなの!? 袖章だけでなくて!?」
さっきの部隊長の姿を思い出す。いや、別に、同じ肋骨服を着てなかったっけ、と。
また溜め息が響く。
「一般兵のは支給品ですけど、士官は自前なんですよ。基本の造形を守った上で、細かいところは好きに作っていいんです」
「自前って…… 自分でお金払って買うの?」
「作ってもらうんです」
はああ、という溜め息が深い。
「仕立屋に行って、測ってもらって、自分の体にぴったり合うのを作ってもらうんです。支給品だとどうしても、ほら、合わないところがあって格好悪いでしょう?」
そう言って、櫂は颯太の肩を指さした。
「背が高いからって、丈だけを合わせたんじゃないですか? 肩が余っています」
「そのうち鍛えたらぴったりになるから!」
「どうだかね。
ちなみに、大きさだけじゃなくて。色さえ合っていれば、布地も自由だし、飾りをつけるのもお好みです。飾緒とか、この先頂けるだろう勲章や徽章だとか、好きなのを好きなだけ飾れるし」
ふっと遠い目をしてから、櫂は続けた。
「お洒落、という点では副官殿のほうが上でしたね」
「そうだった?」
「部隊長殿は徽章が一個だけだったじゃないですか。あれは、士官学校卒業でもらえるものだったと思います。
副官殿はそれ以外にももっと徽章をつけてらしたし。飾緒も、とてもいい仕立てでしたね。高辻少尉は都の公家のご出身だからそういう薀蓄に詳しいのかも」
「そうなの?」
「部隊長殿は北方から異動で来た人だそうだから、都の流行には通じてなさそうですね」
お洒落に詳しくないと、将校になれないのだろうか。そもそも、何故上司二人の出身を知っているのだろう。う~ん、と颯太は唸った。
すると、もう何度目かもしれぬ溜め息が櫂の口から零れたのが聞こえた。
「不慣れというより、知らないって感じですよね、颯太は」
「う……」
「どうせ、この鎮台が魔物専門だということも知らないでしょ」
「ほえ?」
もはや、溜め息さえ出ないらしい。櫂はひくい声で言った。
「この鎮台には大きな図書室があります。ちょっと勉強してきてください」
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