01.出逢い、始まり

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01.出逢い、始まり

 邪魔だ、と怒鳴られた。  腕を引かれて、体が後ろに飛ぶ。目の前に迫っていたが遠ざかっていく。  そして一閃。  刃が(きら)めいて、今まさに己を喰らわんとしていた魔物がざらざらと風に溶けていくのを、見た。 「助かった、んだ」  はぁっ、と息を吐き出すと、膝からも力が抜ける。侑奈(ゆきな)はその場にへたり込んだ。  石畳に触れた脚が、腰が、じわり冷えていく。  一方で、腕は掴まれたままで、熱い。  侑奈の腕を掴んだままなのは、誰かの左手だった。視界に入った反対の右手には、抜き身の刀。  両手ともに白い手袋で覆われていて、足元は革の短靴で固めている。身につけているのは濃紺の肋骨服に官帽――軍人だ。  先ほどの一閃は、この刀で彼が繰り出したものに違いない。  顔は、と視線を向けたら、官帽のの陰になっていた口の端が、ふっと持ち上げられた。 「立てよ」 「え?」 「道に座りっぱなしとはいかないだろ?」  腕から離れた手が静かに差し伸べなおされる。白い手袋の左手に自分の素手を乗せると、ぐいっと引かれた。  その勢いで立ち上がる。  侑奈の着物の袖と女袴の裾が、ふわり、と広がって、落ちる。 「えっと――ありがとう」 「どういたしまして」  口許を笑みの形に整えたまま、彼は侑奈の肩を押した。 「さっさと逃げた方がいい。ここは戦場だ」  押された力に逆らい、背中を向けさせられた方へと顔を向ける。  視線の先は、都の東を流れる川と、その上に架かった橋。  新様式(モダン)な石造りの橋の(ふち)には、瀟洒(しょうしゃ)な欄干とガス燈が並ぶ。その下で(うずくま)っているのは逃げそびれたの人たちだ。  路面を埋めているのは、真っ黒な魔物たちと、陽の光を受けて照る紺の制服で身を包んだ軍人たち。  飛び交う怒号に剣戟(けんげき)の音。真っ黒な、靄のようでありながらもきっちりと形を成した魔物は、刃に裂かれたり、対峙した人に噛みついたりする。  時折、するりと宙に浮いてそのまま橋の上から流れていくものもいるが、その後をすぐさま二、三人が後を追っていく。  魔物が、軍が向かう先では、人垣が割れて道が出来た。  市中に向かう道もまた石畳。両側には木造の町屋が立ち並ぶ。その前にずらり集まった人たちの召し物は全て形も色も異なっていて、浮かぶ声も様々だ。  さすが鎮台、という溜め息と。なんて野蛮な、という呻き。  恐ろしい、と聞こえたのが、軍に対してか魔物に対してかは判らなかったけれど。  今日は多いな、との評は魔物についてだろう。 「数が多い」  侑奈も呟く。  橋を埋め尽くすほどの数。軍の部隊が一つ出てきても倒しきれなくて、さらに。 「だって来ているのに」  祓うための力も足りていないのだろうか。
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