01.出逢い、始まり

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 そんな間にも、彼は冷たい顔で見下ろしてきていた。  この大人と張り合ってどうしようというのか。  眉が下がり、肩が落ちていくのが、自分でも分かる。 「戦えるというなら、なにかしてみるんだな」  浴びた言葉に目を伏せる。 「花を咲かせられる…… けれど」  それだけだ。 「常磐や泰誠みたいに魔物を倒せるわけじゃない。美波みたいに、魔物を清められるものを創れるわけでもないから。わたしには何も」 できない、と言えずにいたら。 「花を咲かせる?」  素っ頓狂な声が聞こえた。  ゆるりと顔を上げる。 「そんな力、聞いたことない」  唸る彼に、また肩を揺らす。 「……でも」  本当だから、と言う代わりに。  ぐるりと視線を巡らせて、探した。  二人が立っているのは、戦いが続く橋の(たもと)だ。喧噪からはわずかに切り離された、南北に伸びる川岸には、躑躅(ツツジ)の木が並ぶ。その中の近い木からから一つ、萎れていた花を摘み取った。 「見てて」  両手で、口許にそれを運ぶ。  小さく呟いたのは、祈りで願い。  すると、薄紅の花が、ふわり艶めいた。 「これしかできないの」  そのまま差し出す。 「だから、やっぱり逃げたほうが、いいのかしら」  答えはない。その代わり。 「……驚いたな」  彼は小さく笑い始めた。 「とんでもないことができるんじゃないか」 「そうかしら?」  首を傾げる。 「魔物に何かできるわけでないから。わたし、役立たずって言われてるのよ?」 「それは違うと思うぞ」  すこしだけ、彼は笑みの形を変えた。 「使い方次第じゃないか。魔物は花を嫌うからな」 「そうなの?」 「俺が知る限りでは」  喉を大きく震わせながら、彼は体の向きを変えた。 「出来ることがあるんだったら、やってみればいい」  革靴が、コツン、と石畳を打つ。  行くぞ、と彼はこともなげに言った。 「橋のほうより、逃げていった奴を追うのを手伝うほうがいいかな」  目を丸くしたのは侑奈だけ。 「ええ?」 「俺も、魔物から逃げたくはない、という点では同じなんでね」  ほら行くぞ、と。言葉を重ねて、彼は大股で歩き出す。 「えっと、その」  つい立ち尽くす。彼は振り返ってきて。 「ほら行くぞ、よろしくな」  笑った。  喉が鳴る。そのまま踏み出す。 「よろしくお願いします!」  叫んで、歩みを止めない彼のすこし後ろを走った。
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