01.出逢い、始まり

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 そうして二人で向かった先にいた黒い魔物を、彼は一刀で切り伏せた。  背中側から食いつこうとしてきた物も、振り向きざまにばっさりだ。 ――わたしにできることなんて、やっぱりないじゃない。  それでも視線は外せない。翻る刃から目を反らせない。  斬って、斬って、斬った後。彼は去りきっていない黒い靄の上に、先ほどの躑躅を落とした。  薄紅が触れたところから、黒い靄は薄れ、消えていく。 「魔物が」 「ちゃんと祓えてるじゃないか、良かったな」  笑われた。  頬が熱を持つ。それを両手で押さえながら。 「なんだ」  呟く。 ――わたしにも、できた。  膝から力が抜けた、横で。 「ほら、よろめいている場合じゃないぞ」  彼は言いながらも、刃を振るう。小さな魔物はさらに細かくなって、消えていく。  それに視線だけ向けたまま。 「俺は、あまりぶった切ってると、怒られるかな」  喉を鳴らす。 「どうして?」 「まだ、着任前なんでね」  首を振った彼を、そうだ、と改めて見た。  濃紺の肋骨服には、本来であれば、肩章がついているはずだ。陸軍の者であれば、所属する鎮台と部隊を示す帯がある。  濃紺だけの軍服は物足りない。  彼自身も、何も付いていない肩に触れて、笑う。 「異動令状はあるんだが、これだけじゃ駄目だからな」 「そうなのね」  頷きかえした時。  ドン、と道が揺れた。  道の向こうへと視線を移す。川沿いに流れてくる焔が見えた。  軍人たちは声をあげて、それを避ける。既に道の端にいた人たちは、その場にうずくまる。漂う魔物だけが呑みこまれて、消えていく。  焔の走った跡を悠然と歩いてくる、二つの人影を見て。 「常盤(ときわ)! 泰誠(たいせい)!」  名前を呼ぶ。  隣の人が首を捻るのに。 「わたしと同じ『かんなぎ』よ。今日は一緒に来てたの!」  言って、駆け出す。  向こうもこちらに気が付いてくれ、歩みを早くする。  先んじて、ツカツカと寄ってきたのは、白い立襟シャツの上に蘇芳の小袖を着た、二十歳の青年。 「どこに行っていた、この間抜け!」  風にあおられる前髪の下では、ギン、と瞳が光っている。 「……ごめんなさい」  肩を縮めて返した声は、掠れた。  その場で足を止め、(うつむ)きかけたら、肩を叩かれた。 「泰誠(たいせい)」  こちらは、短く刈った髪の青年だ。  狐色の鳥打帽(ハンチング)に、深緑の縦縞模様の小袖の中には紺色の立襟シャツ、背板のある白茶色の袴を穿いている。  背は高くないが、厚みのある掌にまるい肩と腹。ふくよかな顔が笑みのかたちになる。 「何処に行ってたの」  泰誠の問いに答えられず、やっぱり下を向く。 「だから連れてくるのは厭だったんだ」  常磐の舌打ちに、首を振る。 「……ごめんなさい」  それだけの言葉を、何とか絞り出した。  ぽん、ぽん、と泰誠が背中も叩く。 「僕も気を付けて見てなくて、ごめんね。怪我がなくて良かったよ。沢山いたなかで、よく無事だったね」 「助けていただいたから……」 ――そうだよ、お礼を言わなきゃ。
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